矢尻

117: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE 2005/10/23(日) 06:56:44 ID:K4efRtLb0
ふかふかの急斜面に足を取られた。 
右足が流れ、木の葉が浮きあがり、小石が転がった。 
転がった小石は、ざぁっと音を立て、その音がいくつも重なり、 
ついに足元の斜面が幅数メートルにわたって崩れ始めた。 
崩れた斜面は更にその幅を広げ、速度を上げ、重さを増し、 
どっと流れ去った。
悲鳴、叫び声。 
一人ではない。 
大人数ではなさそうだが、よく分からない。

下には誰もいないはずだった。 
その日は俺と友人の二人連れで、さっきまで目の届く限り、 
俺たち以外、誰も見えなかった。 
しかし、今の声。

滑り、跳び、転びながら斜面を下った。 
表層がすっかり崩れた斜面はすっかり落ち着き、新たな 
落石や土砂崩れは起こらなかった。

崩れた土砂が積もった所へ飛び降り、見回したが、誰もいない。 
崩れた土砂に埋まったかと思ったが、それほどの量ではない。

あの声は何だろう? 
不思議な思いが広がった。

さらさらっと、何かが首筋に降りかかった。 
次の瞬間、視界全体が真っ暗になり、背中に衝撃を感じた。 
地面に叩きつけられた。 
土砂崩れだという事は、すぐ分かった。 
静かになり、全身で痛みを感じた。
ポリタンクの水で目を洗っっていると、友人が寄ってきた。 
「やられちゃったなあ」 
何の事だろう。 
「今の、空から降ってきたぜ」 
友人も、さきほどの悲鳴は聞いていた。 
俺が駆け下りると、木立のはるか上から大量の土砂が 
降ってきたのだという。

「お、お宝だ」 
俺を直撃した土砂の塊から彼が拾い上げ、俺に差し出したのは、 
黒曜石の小さな矢尻だ。 
たった今作りましたというくらい、綺麗に光っている。 
紐を巻くための窪みの削り方は、明らかに人工的なものだ。

俺と友人が同時に顔を挙げ、周囲に目を走らせた。 
二人同時に、何かを感じたらしい。 
今日は帰った方が良さそうだ。 
矢尻は結局、持ち帰った。 
今も、手元にある。

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