長靴

352: 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ 2006/08/09(水) 23:24:52 ID:N+fh+Xqp0
同級生の話。
彼は学生時代にフィールドワークをしていた山里で、何度か奇妙な体験を 
したのだという。

朝一で雪野原に踏み込むと、外れの方にゴム長靴が一足落ちていた。 
誰かが揃えて置いたかのように、きちんと上を向いて立っている。 
そのまま気にも留めず、雪上で作業に取り掛かった。 
しばらく経ってから手を休め、大きく伸びをしながら辺りを見回す。 
「あ?」どこかおかしい。記憶にある景色と何かが違う。

「あ!」・・・足跡だ。 
一体いつ刻まれたのか、彼のいる反対側、まだ誰も足を踏み入れていない 
筈の雪面に、足跡が一列残されていた。 
野原を半分くらい横切った辺りで、足跡は途切れている。 
丁度そこに、先ほど見かけた黒い長靴があった。 
ポツンと半ば雪に埋もれて。

不意に幻視に襲われた。 
空っぽの長靴だけが、必死に雪野原を横切ろうとしている、そんな光景。 
頭を大きく振って、その想像を打ち消した。 
その日はまだまだその野原ですることが沢山あったのだ。 
おかしな絵を連想してしまうと、どうにも落ち着かなくなる。 
全力をあげて無視することにした。

すべての作業が終わる頃、もう一度だけ件の方向を眺めやった。 
いつの間にか足跡は森の中へ続いており、あの長靴はもうどこにも見当たら 
なかった。

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