赤い半纏

もう二十数年前になりますかね。
深夜ラジオのディスクジョッキーをやっていましてね、そのラジオで怖い話をやっていたんですよ。
色々な地域のリスナーさんから手紙や葉書をいただくんですけどもね。

そんな時に、その中の一通のハガキを読みながらディレクターが、
「うわー...これ俺読めないよ..」って言うんですよ。
それでそのハガキを他のスタッフも読んでね、「うわ..これは俺も怖いよ」って言うんですよ。

私もそのハガキを読んでみたんですが、丁寧な手紙で、ハガキをくれたのはご年配の女性の方でね。
私が娘時代に経験した話だって言うんですね。

その方はその昔、女学校に入ったわけですよね。ところが家からとっても遠い。
それで女学校の寄宿舎に入るわけですよ。
そこにはっていうと先輩が四人。同期の連中が自分を入れて四人入っているわけです。
女学校ですから、女の子ばっかり。

その寄宿舎の建物は昔の分校のようだったそうなんですね。
それがずっと使いまわされて、女学校の寄宿舎になっていたそうです。

ある日の、授業がない日。
昼間からやることもないから寄宿舎でぶらぶらしていた。
そうこうしているうちにトイレに行きたくなったんでトイレに行った。
トイレの扉が、ずらっと並んでいるわけですよね。

別にどのトイレに入ろうか選ぶ気持ちは無いんだけども、その中の一つにはいったわけですよ。
天気のとってもいい日でもって、風が流れて気持ちがいいんですね。

さて、用を足そうかなと思ったら、遠くの外のほうで
「赤ーいはんてーん着せましょかー♪」と聴こえてきた。
(あぁ、おばあちゃんが孫でも背負って子守唄を歌っているんだなぁ)とそう思った。

しばらくすると、「赤ーいはんてーん着せましょかー♪」と割と近くで声がする。
はじめに聴こえた声から今の声を考えてみると、ずいぶん早いスピードでこちらに来たとしか思えない。
でもそんなことはどうでもいいや..と思って用を足そうと思ってね、しゃがみこんだ瞬間に
「赤ーいはんてーん着せましょかー♪」..すぐ傍で声がした。

(この人おかしい。いくらなんでもこう簡単に近くに来れるはずがない..)そう思った。

なんだか怖いなぁと思ったけども用を足さないといけないから、早く用を足そうと思って用を足し始めた。
用を足してさぁ出ようとした瞬間、自分がしゃがんでいるすぐ後ろの壁から、
「赤ーいはんてーん着せましょかー♪」
って聴こえたからびっくりして急いでトイレを飛び出た。
でもこれは誰にも言うのはやめようと思って、誰にも言わなかった。

それからしばらくしたある時、自分と同期で入った女学生の一人が、
「ねぇ、あそこのトイレおかしくない?」と自分が体験したのと全く同じ話しをしてきた。

それで、「いや、実は私も同じ体験をしたんだけど..あれなんなんだろうねっ」て話になった。
そうしたらその友達が、やっぱりこれはまずいから、先輩に言いに行かない?ってことになった。

それで二人で先輩のところへ行ってその話をすると、先輩もその話を知っていた。
ただ先輩もあえて騒ぐのが嫌なもんだから、他のトイレに入っていたって言うんですよね。

でも後輩がそういう目にあったらほっとくわけにはいかないから、
寮を見ている寮母さんに話して、学校の方にも言っておこうよって話になった。

その話を聞いた学校側は若い娘を預かっていますからね。
変ないたずらをされると困るからってことで警察に連絡を取ったんです。

警察がやってきた。事情を聞かれた。
「わかりました。一体どんな奴が犯人なのか、捕まえましょう。」
警察官がそう言ってくれたんですけどもも、警察のその話の受け方がどうも尋常じゃない。

声はどうやらお婆ちゃんらしいんですね。

それで言われた期日、みんな寮に居りましたら警察官が四五人やってきた。
そのうちの一人が婦人警官だったそうですよ。

婦人警官がトイレに入る。
みんなが周りに伏せている。
犯人が現れた時に婦人警官の合図でみんなが飛び出そうということになったんです。

ただ私に手紙を下さったその方が言うには
私が聞いたのは、「着せてくれ」という婦人警官の声だけだったって言うんですよね。
「赤ーいはんてーん着せましょかー♪」という犯人の声は聞こえなかったと..

だから後は自分の推測に過ぎませんが..と書いてあった。
どういう推測かって言うと、
婦人警官がトイレに入りますよね。構えている。
みんなには聴こえなかったんですが、彼女にはきっとその歌が聴こえたんでしょうね。

「赤ーいはんてーん着せましょかー♪」
あ、来たな..と女性警官は思って構える。

しばらくするともっと近くから
「赤ーいはんてーん着せましょかー♪」

それで、うんと近くから
「赤ーいはんてーん着せましょかー♪」
女学生が言ったことと同じ事が起こった。

さぁいよいよ来るな..

とすぐ近くの壁から
「赤ーいはんてーん着せましょかー♪」
と来たもんだから
『おい、着せてくれ!』と叫んだ。

外に居た人間たちはおい、来てくれという声の後に、ズンッという音を聞いた。
そして、しばらくみんな黙った。

と、トイレのドアの下から真っ赤な血が流れてきた。
いけー!という声の合図でみんなでドアを開けた。

そこでみんなが見たものは、トイレのところにしゃがんでいる婦人警官。
その女性警官の首のところにくさび形の木が突き刺さっていってそこから血が噴き出している..
そんな姿だった。

その首から流れた血がみるみるみるみる彼女の着ていた服を赤いはんてんへと染めていった。

これは私が女学生時代に経験した本当の話なんです..
「赤ーいはんてーん着せましょかー♪」

もしトイレでその声を聞いたら着せてくれって言わないほうがいいですよ。

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