夢の中の踏切に立つ女

ご主人の転勤で地方都市に引っ越してきた奥さんの話なんですけどね。
初めての土地ということで色々不便もあったんですけど、買い物に行く道は覚えたんですよ。
その町には市場があるんですけど、そこの手前に踏切があってね。

それからしばらくしてからなんですが、その奥さん寝てると夢をみるっていうんです。
その夢で見る場所って言うのは、昼間に自分が市場に行くときの道だって言うんですが、
妙に実感がある夢で本当に自分がその場所を歩いているような気分になるんだそうですよ。

暗い道の中、市場の手前の踏切までやってくるんですが、
踏切の遮断機が降りていて、向こう側に女の人が立っている。
そしてこっちをジーっと見ている。

なんなんだろうあの人?って思うんだけども、そこで夢は終わってしまう..
そんな夢を何度も見るって言うんですよ。

で、自分としては、夢を見ているというよりも自分が夜に起きていて
実際にその道を歩いて行って、踏切に立っているような気がする。そんな夢だって言うんです。

あれは一体夢なんだろうか...
それとも自分自身が実際にそこに行っているんだろうか...
なんだか気になってしょうがない。

その夢ではいつも踏切の向こう側に女の人が立っている。
そしてその女の人は何も言わないままふっと消えてしまう。

そんな事が続いたある日、そうだ今度あの夢を見たらあの女の後を着いていってみようと思ったそうです。
夢を見たら、後を着いていってみようって発想自体が面白いんですけどね。奥さんは実際にそう思い込んだ。

それで寝ていたらその日もその夢を見た。
自分は家の前から変わらず歩いて行くんですね。
暗い夜道なんですよ。
既に列車なんか走っている時間じゃないんですけども、踏切の遮断機が降りている。
見たら向こう側に女の人がぽつんと立っている。
あー、今日もやっぱり立っているなぁと思った。

様子を見ると、こっちにいらっしゃいと言っているような気がしたんです。
と、自然と遮断機が開いたんで後ろをついていってみた。

よし、今度は行ってみようと夢の中の自分は思っている。
すると女の人は後ろを見ないでスーッと歩いて行く。
自分も後からついていく。

やがて坂道を上がっていくんで、何処に行くんだろう?と思いながらも自分もついていった。
どんどんどんどんと坂道を上がっていく。それで坂の上まで行って右に曲がった。

自分も行ってみると、そこはお寺さんだったって言うんです。
なおもその女の人は歩いて行くもんだから自分も変わらず着いていった。

そうするとお墓があった。
うわー夜のお墓って気持ち悪いなぁ..と自分でも思っているんですけどもついていく。
それでひょいっと見ると、ある墓石の前に女の人が立っているんで自分もそこに行ってみた。
と、そこまで自分が行くと、その女の人は消えちゃった。

なんだかやけに実感がある。
それでその夢はそこで終わって、ふっと目が開くと朝だった。

よく覚えている。
おかしな夢だなぁ...今行った道をもう一度実際に歩いてみようかなぁと思った。
昼間自分は一人ですからね、行ってみたって言うんですよ。

踏切をわたってしばらく行くとあるんですよ坂道が。
えー!実際自分は歩いたのかなぁ?と思いながらどんどんどんどん坂道を上がっていく。
夢の通り道はつながっていく。
夢とそっくり..

じゃあこの道を曲がって真っ直ぐ行くとお寺さんがあるはずだ。
歩いて行くと、やっぱり夢の通りにお寺さんがある。
実際にお寺さんがあったって言うんですよね。

そして更に歩いて行くと、墓に出たって言うんですよ。
で、確かあの辺りだよなぁと思っていたら、そこに墓石がある。
何故か場所を覚えていた。

ここであの人は消えたよなぁ..と思ってしばらく墓石の前でジーっとしていると
どうかされましたか?って声がした。

そのお寺のご住職なんですよね。
「えー、あの..大変失礼なんですけども、こちらのお墓はどちら様のお墓なんでしょうか?」と聞きましたら
ご住職が「こちらの方はですね、少し行った墓地の向こうにお家があるんですが、そこにあるおうちのお墓ですよ」って答えた。

「あー、そうですか..。実は私、面白いようなちょっと変わった夢を見たわけですから..」
と、例の夢の話をして、不思議なこともあるもんですね..って話しをしてご住職と別れたんですね。

ご住職の言われたとおりに行ってみたら家がある。
もちろん自分は初めて行く場所だし、表札を見ても知らない人。
なんなんだろうなぁ一体..。
そう思ったんですけど、その日はそのまま帰った。

何日かしていつものように夕飯の支度がありますから、市場まで行ったわけですよ。
それであれこれ見ながら買い物をしていると名前を呼ばれたんでね、
あれ?と思って自分の事かなー?と思いながら振り向いて向こうを見ると
自分に一生懸命手を振っている女の人がいる。

あれ?と思った。見覚えがあるんですよね。
あ、あの人はいつも踏切に立っているあの女の人じゃないか!と思った。

するとその女の人が「○○ちゃん私のこと覚えてる?」と言ったそうです。
なんのことはない、それは幼馴染だったんですね。
結婚してこの土地にいるそうですよ。

今度良かったら遊びに来てって言うと、その人はぶつっと消えちゃったそうですよ。
話はまだ終わっていないのに..

じゃあ訪ねてみようと思って、坂道をつっきっておうちの前に行ってみた。
あーそりゃそうだ..結婚しているわけだから苗字は違うわけだからなぁ..と思いつつ
「こんにちはごめんください。すみません、こんにちはー。奥さんいらっしゃる?」
っと家に向かって声をかけていると、後ろの近所のおばさんらしき人が出てきた。

「こちらの家を訪ねてきたんですけども..」って事情を話すと、
「あー実はこのお家つい最近ね、引越しされたばかりなんですよ」と近所のおばさんが、って言うんで、
「えっ?あ、そうなんですかー。何で引越しされたんですか?」って聞いたら、
「こちらの奥さんがね、お亡くなりになってそれでご主人が引っ越されたんですよ」って言うんです。

「えっ、こちらの奥さん亡くなられたんですか?」
「えぇ、つい先ごろなんですけどね・・・」
それで詳しい話しを聞いてみたら何の事はない。
自分たちがこちらに越してきたすぐ後にこちらの奥さん亡くなられているんですよね..。

もしかすると自分のことを市場でもって見かけたのかもしれない。
踏切で見かけたのかもしれない。
あぁそうか自分のことが懐かしくて、それで自分のことを呼んでいたのかもしれない..そう思ったって言うんですよ。
なんとも不思議な話ですよね。

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