視線

410 名前:視線(1/2) :02/10/13 18:45 
 昔、四畳半風呂トイレ共同の独身寮に住んでいた。実際にその部屋に入
るまでは、今時そんな部屋はないだろうとたかをくくっていて、想像との
落差に愕然としたほどひどい部屋だった。

 詳しく間取りを聞かなかった自分も悪いのだが、その時既に一人暮し用
に組み立て式のベッドや椅子、机を注文していた。数日後到着した家具を
見て、困り果てながらなんとかベッドだけは組み立て、残りはただでさえ
狭い部屋の隅に放置していた。

 そのベッドは、二段ベッドと同じ位の高さがあり、寝床の下に収納がで
きるような作りになっていたのだが、ベッドだけで四畳半の半分を占めて
しまうので余り意味はなかった。

 ある夜のこと。

 いつものようにベッドに潜り込んでうとうとしていると、床の方が何か
騒がしい。何が起こっているのか確かめたかったが、眠気も手伝ってその
ままにしていた。

 目を閉じて、騒ぎに背をむけながら考えてみた。

「TV、じゃない。でも人の話し声だ。ってゆーか、宴会だ。誰が?床のす
ぐ側で?」

 人じゃない。
 そう考えたときに眠気は吹き飛んだ。 

 宴会の声が止まる。
 しかし、「存在」が消えたわけではない。こっちが
気付いたことに気付かれたのだ。「存在」は息を殺し
てこっちを伺っている。

 しかし、奴らはすぐに大きな声で笑い始めた。すると
一人の背がぐんぐんと大きくなって、僕が寝ているベッ
ドの真横に目線がやってきた。

 僕は背を向けていたけれど、確実にそこに奴らの一人
が立っている気配がする。

 後を振り帰る勇気はなかった。そのまま視線の気配が
完全に消えて、床の宴会の気配も消えるまで僕は動けな
かった。

おわり 

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