トンネル

723 :718:2007/01/12(金) 22:40:51 ID:tZBydRu70
遅くなりました。 

まず、最初に。私は霊の類を一切信じていない。なので、もし、私が体験した現象を誰か科学的に納得してくれるように説明してくれたら、とても 
ありがたい。何故なら、これは心霊現象などではなかった…と安心出来るからだ。 

私はいつも、山を一つ越えた所にある職場に車で通勤している。山の中腹まで急な坂道を登り、そこから2分程で通過できる長さのトンネルへ入る。 
トンネルを抜けると、またまっすぐに坂を下りて麓の町(村、かも)にたどり着くという具合だ。 

このトンネルには以前から様々な噂があり、曰く、工事中に死んだ作業員の霊が出る、
中で起こった事故の被害者の霊がウィンドウに張り付き中を じぃっと見る、
近所であったひき逃げ殺人事件の被害者がなぜかトンネル内で犯人を探す…といった具合だ。 

もっとも、殺人事件の件意外は事実無根の噂話。建設中の事故も、中での交通事故も、実際にあったという話は聞いた事が無い。
麓の村が出来た頃から住んでいる祖母も、工事中の死者や内部での事故の死者については聞いた事が無いと言う。
唯一、近くで実際に起きたひき逃げ殺人事件も犯人は捕まっている。 

ただし、外から見ればツタの這う不気味な出入り口、内部は薄暗い、
ところどころ切れてしまったオレンジの照明、ひび割れた壁等を見れば、そんな噂が立ってしまうのも仕方ないと思わせる雰囲気ではある。 

私はいつも、ラジオを聞きながら車を走らせている。トンネルに入るとラジオの電波は届かなくなる。
入り口から数十秒程度の間は聞こえているのだが、その後、1分程の空白が訪れる。
そして、トンネルを抜けると電波が復帰し、音が戻ってくる。
わざわざ電源を切ったりするのも面倒なので何時も、ラジオには触らないままで通り抜けている。
普段通りであればこのようになるはずだった。しかし… 

私の体験は、この空白の1分程の間に起きた事だ。 

ある日、私は仕事が遅くなり、夜の1時過ぎ頃に帰宅する為にこのトンネルを通った。
なにぶん、ドが付くほどの田舎なので、この時間に車とすれ違う事などは滅多に無い。
光も、音もこのトンネルにつくまでの前15分程は自分の車以外のものは見なかった。 

いつもどおり、トンネルにさしかかり、その入り口をくぐる。私の父などは、夜中の3時過ぎに着物姿の女性が歩いているのを見た、怖い。
などと言うが、私は怖いと思った事は無かった。なぜなら、その類の話をまったく信じていなかったからだ。
トンネルに入って数十秒後に電波は途切れた。 
何時も通り。そして、無音の中で車を走らせる。 

「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」 

トンネルのちょうど真ん中辺りに差し掛かった時、まるでこれから殺されるかのような悲鳴が超大音量で車内に響いた。
私はあまりに驚き、ブレーキを目いっぱい踏んだ。
体が前にはじき出されるような衝撃があり、それをシートベルトが吸収した。 

私はじんわりと冷や汗をかき、今、何が起こったのかわからず、混乱した。 
今の悲鳴は…確かにラジオのスピーカーから聞こえてきた。 

その日はどうやって家に帰ったのか覚えていない。ムチャクチャなスピードを出してしまったような気がするが、幸い警察には捕まっていない。 

今でも、毎日そのトンネルを通っている。しかし、トンネルに入る前にラジオの電源を落とすようになった。 

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