先導者

367 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ sage 2013/04/05(金) 17:47:53.24 ID:LXc+rWY50
山仲間の話。 

彼が友人であるN君と二人で、夜の山を登っていた時のこと。 
月明かりでボンヤリと照らされた山道を辿っていると、前を進んでいたN君が 
いきなり足を止めた。 

「どうした?」と呼び掛けたが、返事がない。 
「おいどうしたんだよ、Nってば!?」肩に手をかけ、強引に振り向かせる。 

その顔はまったく見覚えのないものだった。 
硬直した彼に向かい、そいつはニヘラと薄く嗤って答えた。 

「Nって誰だ?」 

悲鳴を上げると、後も見ずに逃げ出した。 
背後から不気味な嗤い声が届いたが、幸いにも後は追って来ないようだ。 
嗤い声は段々と小さくなっていく。 

足下も確かでない山道を転びながら走っていると、唐突に誰かに抱き止められた。 
「おい、何やってんだ!?」 
彼を抱き締めて大声を上げる男性、その顔は間違いなくN君のものだった。 
我に返ると、腰が抜けたようになってしまい、その場に崩れ落ちたという。 

その直後、N君に聞かされた話。 
「ふと目が覚めたら、隣の寝袋が空になっていてさ。 
 雉でも撃ちに行ったのかと思ったが、いつまで経っても帰ってこない。 
 気になって捜しに出たら、上の方からお前が叫びながら走って下りてきたんだ」 
 
そう聞かされて落ち着くと、ようやくまともに物事が考えられるようになった。 

そうだった。 
二人はこの少し下場にテントを張り、夕食と酒を楽しんでから就寝したのだった。 
しかしそこまで思い出したものの、何故眠っていた筈の自分が寝袋を抜け出して、 
得体の知れない誰かと一緒に夜の山を登り始めたのか、まったく記憶にない。 

……気が付いたら、二人で夜の山道を歩いていた。 
先導する何者かをN君だと思い込んで……思い込まされて? 

二人して顔を見合わせたが、どちらの顔も白くなっていたという。 
テントまで駆け戻ると、消していた焚き火を再び起こし、杖をしっかりと持って 
寝ずの番をすることにする。 
とても意識を手放す気にはなれなかった。 

幸いその後は何も変わったことは起きず、無事に朝を迎えた。 
慌ただしく荷物を片付けると、予定を切り上げて一目散に下山したそうだ。 

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