都内の一戸建て - 伊集院光

今日話す内容は地元の小中学校の友だちで、親の仕事を継いで不動産屋さんをやっている奴がいるんです。
そいつは結構面倒見の良い奴だから仲間内でも「こういう物件無い?」ってソイツに聞いて
「あー、それだったらこういうマンションがあるよ」とか、
「こういうアパート探してくんないかな?」と言うとすぐに探してくれるようなそういう奴なんです。
周りでも結構ソイツに世話になっているんですよ。
俺も今でも仲良いんだけど。
そのAがこんな話を話したんだ。

「この前中学校時代のBから電話があってさ、無理難題を言われちゃってさ。
 『駅からはそんなに近くなくていいんだけど、一戸建てで都内で、十万円くらいの物件はないか』と言うんだよ。
 でも流石にそれは無い。
 いくら知り合いで儲け無しで考えてもそれは出来ないよ。
 まぁ大して仲も良くなかったし、そう言って電話切ったんだけどさ。
 そしたらまた一週間後くらいに電話掛かってきてさ、

 『お前なんかに頼まなくたって、足を使って探せばあんだよ、そういう物件。
  もう俺そういう物件見つけたから。
  お前にはもう二度と頼まないよ』

 そう言われて俺も結構カチンと来ちゃってさ。
 あるわけないじゃん、都内で一戸建てで十万切るとかありえないよ。
 そう思ったんだけども、実際にソイツの家に遊びに行った奴とかいて、結構な間取りのところに住んでるらしいんだよ」

それからまたひと月くらい経った頃かな、またその不動産屋さんのAと連絡をしたら
家を借りたBっていうのは、霊感とか全然無くて、むしろ鈍感というか、
人の気持ちが全く分からなくて人に嫌われる奴っているじゃないですか、そういう奴なんですよね。

B「俺の家に遊びに来た奴が皆霊が出るとか、お化けが出るとかケチを付けて帰るんだよ。
 すっげぇ腹たっちゃってさ。
 例えば泊まっていくと、壁をドンドンと叩く音が聴こえるとか。
 二階の廊下で痩せこけた小学校くらいの女の子が歩いているのを見たとか。
 こんなの言われたら腹が立つだろ。
 お前もさ、不動産屋だったら一体俺の借りた物件がどれだけいいかちょっと見に来てくれよ」

そうやってAは言われたそうなんです。
それでAはそこに行ってみたんですけど、外から見るとこれはこの値段では借りられないような物件だなと。
そうだとしたらすごいなと。
それで呼び鈴を押して中に入ったらBが出てきたんですけど、出てきたBは痩せこけてて、うわっ大丈夫かよって顔つきなんだって。
だけどそんなことは言えないから、「久し振りだね」って普通に挨拶をして

A「良い物件だね。
 お前自身には変わった体験をしたとか、変な体験をしたことはないの?」

B「無いよ、俺霊とか信じないしさ。
 大体みんな俺がこういう良い家を借りたからさ、僻んでケチつけたいだけなんだよ」

Bは痩せこけた顔のまま妙に明るい口調でそういうんだって。

B「ただ一個あったんだけど、それもどうでもいいことだな。

 入った日に電話を取り付けてさ、『電話番号をメモしてください』って言うから何かメモするものはねぇかなって思ったら
 近くにあったから、その紙で電話番号をメモして、電話を切って手を見たら、手に青いクレヨンを持ってる。
 でも俺はさ、青いクレヨンなんて使わないからさ、何でこんなの持ってるんだろうって、
 前に住んでいた奴が忘れてったのかな、みたいな、そんなことがあったくらいだよ。
 それはお化けじゃないしな、ただのクレヨンだしな。

 まぁさ、入ってよ。
 広い家なんだよ、二階もあるしさ」

それでAが二階に行った途端に、おかしいんだと。

A「お前さ、この家おかしいよ」

B「お前までそんなこと言うのかよ。
 お前さ、大体俺が探した時にそういう物件は無いって言っただろ。
 だからお前は悔しくて言ってんだよ」

A「いや、そうじゃないんだよ。
 俺はプロとして言ってるんだ。
 今から説明するから、お前ちょっと紙あるか?

 ほら、こうだろ。
 お前の家の外観って、真四角だよな。
 一階にはここにキッチンがあって、こういう部屋があって、トイレとバスがこうあるだろ。
 それで専有面積がこれくらいなんだよ。
 それで二階の間取りはここに部屋があるだろ。
 これが部屋で、ここにも部屋があるだろ。
 だからさ、ここの廊下の突き当りには、四畳半の部屋があるはずなんだよ。
 どう見たってそうだろ、そうじゃないと面積が合わないじゃないか」

B「本当だ、ここに部屋がないとちょっと変だ」

よく見てみたら、一階も二階も殆ど同じ壁紙なんだけども、その突き当りのところだけ壁紙が新しくて他の違うの。
じゃあ剥がしてみようってことで剥がしてみたら、ドアノブの無いドアが出てきて、釘が全部打ってあった。

B「な、なんだよこれ」

A「なぁ、これ明けてみていいか、直すのにはそんなお金かかんないからさ」

それでそのドアをガッと開けたら、中には部屋中に青いクレヨンで

“お父さん出して お父さん出して お父さん出して”

と部屋中に書いてあった。

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