怪物 「転」 - 師匠シリーズ

21 :怪物  起承「転」結   ◆oJUBn2VTGE :2008/07/21(月) 00:48:03 ID:qlom6ToI0
図書館からの帰り道、私はクレープを買い食いしながら商店街の路地に佇んでいた。
夕焼けがレンガの舗装道を染めて、様々なかたちの影を映し出してる。
道行く人の横顔は、どこか落ち着かないように見える。
みんな心の奥深い場所で、説明しがたい不安感を抱いているようだった。
そう思った私の目の前を、女の子たちの笑い声が通り過ぎる。
息を吐いて、最後の一口を齧る。
どの人の表情も、私の心の投影なのかも知れない。ロールシャハテストだ。
笑い顔以外に、すれ違うの人の気持ちを理解できる機会なんてまずないんだから。
結局あの図書館の本の落下の原因はわからないままだった。
こんなことが昨日の水曜日から今日にかけて、街の至る所で起きているらしい。
私は起こっていることより、この一連の出来事の向かう先のことが気に懸かっていた。
いったいどういうカタルシスを迎えるのか。
そう考えながら目を閉じると、何かをせずにはいられない気持ちになるのだった。
『エキドナを探せ』
その言葉に糸口を見出せそうな気がする。さっきからそのことばかり考えている。
クレープの包みをクズ籠に放る。
私にこのヒントを投げ掛けた間崎京子は、街中で起こっている怪異を怪物に例えた。
そして、その怪物たちを生み落とすのは、蝮の女エキドナだ。
これがいったい何の隠喩なのか定かではない。
定かではないが、私はこう考えている。
少なくとも間崎京子は、一見バラバラに発生しているように見える怪奇現象が、単一の根っこを持っていると思っている。
それも、ナントカ現象だとかナントカ効果だとかといった、包括的ななにかではなく、
信じがたいことにそれは、たった一つの“人格”と言えるような存在に収束されているような気がするのだ。
ハ。こんなこと、誰かに話せるようなものではない。 

つくづく一人が好きだな。
暗鬱な気持ちが帰り道をやけに遠くさせた。
家に帰り着き、玄関の前に立った時から気づいていたが、やはりその夜の晩御飯はカレーだった。
「そんなに水ばかり飲んでると、消化が悪くなるわよ」という母親の小言を聞きながら、
カレーをスプーンでかき込み、水で流し込む。
「今朝どっかで工事してた?」
さりげなく聞いてみたが、「そういえば、どこでやってのかしらね」と母親が首を傾げる。
父親は「知らん」と言いながら夕刊を読んでいる。
妹は身体を反転させて、皿を持ったまま居間のテレビを見ている。
父親が読み終わるのを待ってから夕刊に目を通したが、特に変わった記事はなかった。
それから自分の部屋に引きあげる。

明かりとラジオをつけて、部屋の真ん中。隅に転がっていたクッションを引き寄せる。
なにをすればいいのか正直分からない。
とりあえず昨日ファフロツキーズの項だけ読んで投げていた『世界の怪奇現象ファイル』を、通して読んでみることにした。
ラジオがくだらない話題で、けたたましい笑い声を出し始めたので、スイッチを消し、適当なCDをかける。
そして黙々と頁をめくる。
どこかで聞いたことがあるような怪奇現象ばかりが列挙されているが、情報の量と質にはかなり偏りがあり、
ファフロツキーズの項のような詳細な解説はあまりなかった。

そんな中、CDの7曲目が過ぎたあたりだっただろうか。
私は半分読み飛ばしかかっていた文の中になにか引っかかるものを感じ、思わず姿勢を正す。
それは、『ポルターガイスト現象』の項だった。 

『ポルターガイスト現象の例としては、室内にバシッという正体不明の音が響く、
 手も触れていないのに家具が動く、皿が宙に舞う、スイッチを入れていない家電製品が作動するといった、
 目に見えない力が働いているかのようなものから、
 何もない空間から石や水が降ってきたり、火の気のない場所で物が発火したりといった、怪現象などが挙げられる』
私は緊張した。
石降り現象!
そういえばポルターガイスト現象を題材にしたドラマだか映画だかで、室内に石が降って来るという場面を見たことがあった。
完全に失念していた。
間崎京子はこれを言っていたのだ。
『ファフロツキーズ』という言葉に振り回されるなと。
自分の間抜けさに腹が立つ。
石の雨が降るという現象には、別のアプローチの方法があったのだ。
「クソッ」
本を投げて立ち上がる。
ポルターガイスト現象の項はあきらかにやっつけ仕事で、
情報量としては私でもおぼろげに知っていた程度のことしか載っていなかった。
鞄からアドレス帳を引っ張り出して、目当ての番号を探す。
中学時代の先輩だ。部活が同じだった。
彼女は子どものころに、身の回りでポルターガイスト現象としか思えないような不可解な出来事が続いたらしく、
やがてそれが収まった後も、なにかと話のタネにしていた。
散々同じ話を聞かされたので内心ウンザリしていたものだが、2年ほど経った今では案外忘れてしまっている。
「晩に済みません。しかもいきなりで。ちょっと教えてもらいたいことがあるんですが」 

突然の電話にも関わらず彼女は私を懐かしがって、『電話より、今からウチ来る?』と言ってくれた。
「すぐ行きます」と言って電話を切り、
廊下から居間の方に向かって、「ちょっと出てくる」と大きな声で告げてから家を飛び出した。

生ぬるい空気が夜のしじまを埋めている。
一日熱エネルギーを吸収したアスファルトがまだ冷めないのだ。
自転車に乗って住宅街の路地を急ぐ。
街灯がぽつんとある暗い一角に差し掛かった時、コンクリート塀の傍らに設置されている公衆電話が目に入った。
何故か昔から苦手なのだ。
小さいころに『お化けの電話』という怪談が流行ったことがあり、
ある9桁の番号に公衆電話から掛けると、お化けの声が受話器から聞こえてくる、という他愛もない噂だったのだが、
私は近所の男の子と一緒に、この公衆電話で試したことがあった。
記憶が少し曖昧なのだが、たしかその時は、その男の子が「聞こえる」と言って泣き出し、
受話器をぶんどった私が耳をつけると、ツーツーという音だけしか聞こえなかったにもかかわらず、
その子が「だんだん大きくなってきてる」と喚いて、電話ボックスから飛び出してしまい、
取り残された私も怖くなってきて逃げ出してしまった。
それ以来、この道を通る時には、無意識にその電話ボックスから目を逸らしてしまうのだ。
気味は悪かったが、今は何ごともなく通り過ぎて先を急ぐ。

先輩の家には15分ほどで着いた。
玄関先で待っていてくれたので、チャイムを鳴らすこともなく家に上げてもらう。 

時計を見ると夜の9時を回っていたので、「遅くに済みません」と恐縮すると、
「母親が現在別居中で、父親は仕事でいつも遅くなるから全然ヘイキ」と笑って話すのだった。
兄弟姉妹もいないので、いつもこの時間は家に一人だという。
先輩の部屋に通されて、クッションをお尻に敷いてから、どう話を切り出そうかと思案していると、
彼女は苦笑しながら私を非難した。
「同じ学校に入って来たのに、挨拶にも来ないんだから」
ちょっと驚いた。
中学時代の2コ上の先輩だったが、そういえば高校はどこに進学したのか知らなかった。
まさか同じ学校の3年生だったとは。
向こうは何度か学内で私らしき生徒を見かけたらしく、新入生だと知っていたようだった。
しばらく学校についての取りとめもない話をする。
正直、早く本題に入りたかったのだが、先輩の話は脱線を繰り返している。
ただひとつ、『校内に一ヶ所だけ狭い範囲に雨が降る場所がある』という奇妙な噂話だけはやけに気になったので、
今度確かめてみようと密かに心に決める。

「で、聞きたいことってなに?」
先輩が麦茶を台所から持ってきて、それぞれのコップに注ぐ。
ポルターガイスト現象のことだとストレートに告げた。
先輩は目を丸くして、「ピュウ」と口笛を吹く。
「あれ?あなたにはあんまり話してなかったっけ?」
いや、聞きました。耳にタコができるくらい聞かされました。

先輩が小学校4年生くらいのころ、家の中でおかしなことが立て続いて起こったそうだ。
例えば、食器が棚から勝手に飛び出し地面に落ちて割れたり、
窓のカーテンが風もないのにまくれ上がったり、
部屋のどこからともなく何かがはじけるような音が断続的に響いたり、
ある時など、家族の目の前で花瓶に挿していた花がフワフワと宙に浮き始め、
いきなり凄い勢いで天井に叩きつけられたこともあったらしい。
それが数日置きに何週間も続き、ある時パタリと止んだかと思うと、またしばらくして急に起こり始める。

困惑した両親は、ついに有名な祈祷師を紹介してもらい、家のお払いをしてもらった。
その後、物が動いたりといったことはなくなり、
何かがはじけるような物音や、屋根裏を誰かが這っているような音は時々あったそうだが、やがてそれも起こらなくなった。
今お邪魔しているこの家でのことだ。
思わず部屋の天井の辺りを見上げたが、特になにも感じる所はなかった。

「聞きたいのは、石が降ってきたことがあったかどうかです」
「石?家の中に?」
「家の外でもいいですけど」
先輩は記憶を辿るような視線の動きを見せた後、「なかったと思う」と言った。
「じゃあ石じゃなくてもいいですけど、
 家の中になかったはずのものが、どこからともなく現われたりしたことは?」
「……お皿とか果物とか、色々飛んだり落ちたりしてたけど、全部家にあったものだからなあ。
 ないモノが出てくるって、なんか凄いね。サイババみたい」
先輩は面白がって、最近テレビで見たという、サティア・サイ・ババのアポート(物品引き寄せ)について喋りだす。
「こんなしてさ、手のひらぐるぐる振ってから、出しちゃうのよ」
テーブルの上にあった鋏を手に持って、その様子を実演してみせてくれる。
私は少しがっかりした。 

「そんなにポルターガイストとかに興味あるの? 
 あたしも最近は全然だけど、むかし気になって色々調べたから、そっち系の本があるよ。
 読みたいなら貸すけど」
「是非」と言うと、先輩は「ちょい待ち」と部屋の本棚をゴソゴソと探し回って、何冊かの本を出してきてくれた。
いずれもオカルト系の雑誌の類だ。それぞれポルターガイスト現象に関する所に付箋がついている。
礼を言って、おいとまをしようとした時、先輩が私の顔をまじまじと見つめてきた。
「あなた、ちょっと変わったね」
先輩こそ、剣道部で後輩をしごいていたころからしたら、随分肉がついてしまってるじゃないですか。
そんなことを婉曲に言ってみたが、先輩は自分のことはまったく耳に入らない様子で、ブツブツと口の中で呟いている。
「変わったというか、変わっている途中、みたいな」
その瞬間、背筋に誰かの視線を感じた気がして振り返りそうになる。
「あ、ごめん。気にした?まあ、また今度ゆっくり話そ」
なんだろう。今の感じ。
その嫌悪感を、私は“知っている”。そんな気がした。
玄関を出て、家の前で見送ってくれる先輩に最後に一言だけ問いかける。
「最近、怖い夢を見ませんでしたか」
先輩は顔を強張らせたかと思うと、柔和な笑みでそれをすぐに包み隠す。
「そう言えば今朝がた見たけど。変な夢だったな。ありえない夢」
オヤスミ。と手を振って先輩は家の中へ消えていった。誰もいない、たった一人の家に。

私は自転車に乗っかると全速力で漕ぎ出した。
家に帰り着くのが遅くなるにつれて、母親の小言の量が比例して増えるのだ。
星を空に見ながら夜の道を急いだ。 

「ポルターガイスト現象の事例として名高いのは、
 1848年、ニューヨーク州ハイズビルの、フォックス家を襲った怪現象がその筆頭として挙げられる。
 また近年では1967年、ドイツのローゼンハイムにある、アダム弁護士事務所で起きた事件や、
 1977年以降、ロンドン北部エンフィールドの、ハーパー家で起きた怪異も広く知られている」
そんな説明を読みながら、ふと、学校の教科書もこのくらい熱心に見ていたら、もっと成績も上がるだろうに思い、
自虐的な笑いが込み上げて来る。
もう時計は夜の12時を回っている。
先輩から借りた本をさっそく読んでみたのだが、かなりの分量がある。
明日も学校があるし、適当なところで切り上げて早く寝た方が良いと分かっているのだが、
何故か気が逸って手を止められない。
ハイズビル事件では、
フォックス家の次女マーガレット(15)と三女ケイト(12)の周辺で、壁や天井を叩くような奇妙な物音が聞こえ始め、
その物音とある合図によって交信を図ることで、霊とのコミュニケーションをとることに成功したと言われている。
ローゼンハイム事件では、電話機の異常から始まり、
蛍光灯の落下や電球の破裂、金庫やオーク材のキャビネットが独りでに動くなどの、怪現象が起こった。
エンフィールド事件では、娘のジャネット(11)が部屋で聞いた『何かを引きずる音』に端を発し、
おはじきや積み木が空中を飛んだり、タンスが独りでに数十センチも動いたり、
ジャネットが寝ようとすると、ベッドからトランポリンのように投げ出されるといった、
不可思議な出来事が1年あまりも続き、
その間に近所の住民やマスコミ、ソーシャルワーカー、イギリス心霊現象研究協会のメンバーなど、
延べ30人以上の人間が、これらを目撃したと言われている。
その他の様々な事例の紹介を見ていくと、本の総論として解説されるまでもなく、
かなりの割合でその現象の焦点になっているのが、ティーンエイジャーの若者、それも女性であることに気づく。

ローゼンハイム事件では、弁護士事務所の秘書アンネマリー・シュナイダーが、現象の中心にいたとされているが、
彼女は当時まだ18歳であり、怪現象は彼女が出勤している時にばかり起こっていることを、
超心理学研究所のハンス・ベンダー教授に指摘されている。
その後、アンネマリーが解雇されると、怪現象はピタリと収まった。
ポルターガイスト現象とはその名の通り、ポルター(騒がしい)・ガイスト(霊)の起こす現象とされることが多かったが、
近年では様々な解釈がなされている。
低周波や水撃音などで科学的に説明しようとするものや、売名目的のでっちあげとする説、
また超心理学者などは、これを超常現象の一種であると位置づけている。
その超常現象説では、現象の焦点になっているのが若年者であることに注目し、
精神的に不安定である思春期前後の彼女らが、抑圧されたフラストレーションの捌け口として、
無意識的にサイコキネシス現象を発動しているのではないかとした。
超心理学者たちは、この現象をRSPK(反復性偶発性念力)と呼ぶ。
無意識に起こるPKなので、その当事者も基本的には自らを被害者であると認識している。
エンフィールド事件では、焦点となったジャネット自身、ベッドから跳ね飛ばされて寝れないという被害を受けている。
その瞬間を捉えたという写真が本に掲載されていたが、なんともコメントしづらい写真だ。
宙には浮いているのだが、自分で跳んでいるようにも見える。
「RSPKか」
ボソリと口にすると、なんだか面映い。
そんな変な言葉で説明するより、もっと単純な解釈があるように思えてならない。
思春期の子どもがいる家で起こった現象なら、真っ先にイタズラじゃないかと疑うべきだろう。
実際ハイズビル事件では、フォックス姉妹が後に、
あれは関節を鳴らすなどした自分たちのトリックだったと告白しているらしい。
一つの事例がトリックだったからといって、すべての事例がトリックだと断言するのは乱暴だが、疑われてしかるべきだろう。

ただ、ローゼンハイムの事件では、
事務所の備品が破損したり、掛けていないはずの電話で多額の電話代を請求されたり、といった実害があったために、
電気系統の技術者や物理学者、警察などが調査にあたったが、いずれも合理的な説明を出来なかったという。
ノイローゼ気味だったという秘書のアンネマリーが起こしたイタズラだとするには、
複数の人間の目の前で動いた180キロのキャビネットは重すぎた。
そのためローゼンハイム事件は、最も信憑性の高いポルターガイスト現象の例とされているそうだ。
信じるか、否か。それが問題だ。

本を閉じ、昨日一日でこの街に起こった出来事をひとつひとつ考えてみる。
音だけの工事。
棚から飛び出した図書館の本。
コンビニ内の怪現象。
駅前のビルの奇妙な停電。
掘り出された並木。
ガソリンスタンドの揺れる給油ホース。
針がでたらめに動くアーケードの大時計。
そして石の雨。
いずれも、ポルターガイスト現象の例に含まれてもおかしくない内容だ。
逆に言うと、ポルターガイスト現象がそれだけ間口の広い、言わばなんでもありの括り方をされているということだろう。
先輩は経験しなかったという石が降るという現象も、過去の事例を紐解くと散見できた。
石降り現象はどちらかというと、心霊現象というよりRSPK説を補強するようなものと言えそうだ。
ただ、昨日街で起きた事件のうち、ポルターガイスト現象と呼ぶには少しおかしい部分がある。
それは工事の音と、並木、大時計、そして石の雨の4つだ。
これらはいずれも、家屋の中で起こったものではない。
ポルターガイスト現象は、基本的には家屋の中で起こるものとされているのに。 

あるいは、ガソリンスタンドの事件も、屋外としてもいいかも知れない。
イタズラにせよRSPKにせよ、屋外で影響を成した『焦点』とはいったい誰なのか。
大時計はなにか仕掛けが出来たとしても、
短時間で誰にも気づかれずに並木を掘り起こすことと、100メートルにも渡って路地に石の雨を降らせることは、
一体何者に可能だというのだろう。
そしてなにより、これらが昨日のたった一日で起こった出来事だという事実。
私の中で、ある気味の悪い仮定が生まれつつあった。
その仮定は、私の妄想の深い霧の中から、奇怪なオブジェとして現れてきた。
まだそのすべてが見えているわけではない。
けれど、わずかに覗くそれは、どうしようもなく不吉な姿をしている。
昨日一日で起きた怪現象が、それぞれ偶発的な個別のポルターガイスト現象でないとすると……

私は立ち上がり、窓のカーテンの隙間を指で広げる。
その向こう、闇の中には、まだ起きている家の明かりがぽつぽつと点在している。
それは、夜の海に浮かぶ儚い小船の明かりのように見えて、私を心細い気持ちにさせる。
目を閉じて心を落ち着かせ、夜のしっとりとした甘い匂いを鼻から吸い込む。
間崎京子は『エキドナを探せ』と告げている。
私は探さなくてはならないのだろうか?
怪物たちのマリアを。

怖い夢を見ていた気がする。
次の日、金曜日の朝。私は寝不足の瞼を擦りながら目覚まし時計を叩く。
昨日は何時に寝たのだったか。全身がだるい。そして寝汗をかいている。
ベッドの上に胡坐をかいて、髪の中に指を突っ込む。
ふつふつと記憶が蘇ってくる。

私は明け方の夢の中で、母親を殺した。
昨日の夢と同じだ。

夢の中で私は足音を聞く。そして玄関に向かい、背伸びをしてドアのチェーンを外す。
顔を出した母親の首筋に刃物を走らせる。
胸には憎しみと悲しみに似た感情が混ざりあって渦巻いている。
血を間欠泉のように噴き出して崩れ落ちる母親を見ながら、
私は自分自身の吐く息を、どこか遠くから吹く隙間風のように無関心に聞いている……

「しまった」
ベッドの上で、搾り出すように言った。
ただの夢ではないのは明らかだ。
まったく同じ夢。
これ自体が怪現象の一部なのだ。あるいはその本体に近いなにか。
そもそも、私がこの街に起こりつつある異変にはっきり気づいたのがこの夢からだった。
怖い夢を見たという記憶だけあるのに、その中身を思い出せない。
そんな人間が恐らくこの街のいたる所にいたはずだ。私もその一人だった。
その夢が朝の光の中に残るようになった。その意味をもっと真剣に考えるべきだった。
クラス中で囁かれる奇妙な噂話に気を逸らされて、誰にも夢の話を聞いていない。
まさにその夢を忘れなかった朝から、まるで手のひらを返したように怪異が街に噴き出し始めたというのに。
最短でこの怪現象の正体に迫る方法を私は見過ごしてしまっていた。
このロスが致命的なものにならないことを祈るしかない。
「クソッ」
昨日から数えて何度目かの悪態を枕にぶつける。
致命的?
その無意識に浮かんだ言葉に、私は思わずゾクリとする。
直感が、この街になにか恐ろしいことが起ころうとしていることを告げているのか。 

バシン、と両手で頬を張る。
パジャマを脱ぎ、急いで服を着る。するすると皮膚の上を走る布の感触。
頭は今日するべきことを冷静に考えている。
制服に着替え終えるとドアを出て、まず妹の部屋に向かった。

「入るぞ」
妹はベッドに腰掛けたままで、もぞもぞとパジャマを脱ごうとしている最中だった。
「な、なに」
警戒する様子にも構わず、前に立って見下ろす。
「夢を見たか」
「はあ?夢?見てない」
たぶん。と付け加えた妹は、訝しげに私の目を見る。
「最近母親がやたらムカつかないか」と聞いてみたが、「別に」との答え。
OK。嘘をついている様子はない。
さっさと部屋を出る。
つまり、受け取る側にも強弱があるのだ。受信アンテナの性能とでもいうのか。
波長が合ってしまった人間だけが、強制的にある感情を植えつけられている。
階段を降り、リビングに向かう。

台所では、母親が冷蔵庫から牛乳を取り出している。
「おはよう」
「おはよう」
自然な挨拶が交わされる。
大丈夫だ。母親を憎む気持ちは収まっている。少なくとも、殺してしまうような角度にメーターはない。
無事にパンと牛乳の朝食を終え、急いで家を出る。
昨日の工事の音は、今朝は聞こえない。
今日も暑くなりそうな陽射しの強さだ。
歩きながら朝刊の記事のことを考える。
『UFOか?市内で目撃相次ぐ』
そんな見出しに、潰れたような写りの悪い写真が添えられていた。 

昨日の午後6時過ぎ、北の空に謎の発光現象が起こるのを、多くの人が観測したという内容だった。
私が図書館にいた時間帯か。見たかったな。
けれどこんな事件にはもうあまり価値はない。
ばら撒かれるピースに顔を寄せて覗き込んでもなにも見えてこない。
私は昨日得た強引な仮説に基づいて、この怪現象の全体像を捉えようとしているのだから。

学校に着いた。
校門の内側で人だかりが出来ている。
近寄ると、校内の地面に20センチほどの深さの凹んだ跡があった。
その周囲1メートル四方に、まるで巨大なハンマーで力任せに叩いたようなヒビが入っている。
昨日まではなかった。夜の間にこうなっていたらしい。
教師たちに追い払われ、みんなヒソヒソと口を寄せながら、昇降口に吸い込まれていく。
不思議だが、これもただのノイズのようなものだ。実体ではない。捉われてはいけない。

教室に入ると、いつにも増して妙にざわついた雰囲気が辺りを覆っている。
朝礼で担任の教師が生徒に向かって、「浮わついているようだから、気を引き締めるように」という、
まったく具体性のない説教を自信なさげに口にした。
先生自身、なにをどう注意すればいいのか分からないのだろう。

1時間目の授業は生物だった。内容に全然集中できない。
『今日は金曜日か』
休日よりも平日の方が情報収集には向いている。今日一日でどれだけ情報を集められるかが勝負だ。

1時間目が終わり、休み時間に入る。
さっそく今朝の校門のそばの凹んだ地面についての噂話が始まる中を、
強引に割り込むようにして私は次々と質問をしていった。
「怖い夢を見なかったか」と。
誰も戸惑いながら、顔を強張らせて答える。
多くは「見てない」という答えだったが、ぽつりぽつりと「見た」という返事も混ざっていた。 

普段クラスメートとは距離を置いている私が、ズカズカとプライベートに踏み込んで来るのを不快そうにする連中から、
それでもなんとか重要な部分を聞き出す。
「見たよ。お母さんを殺しちゃう夢」
そんな答えをした子が複数いた。
やっぱりだ。みんな同じ夢を見ている。
細部まで同じ。ドアのチェーンを外して、迎え入れた母親に刃物で切りつける夢だ。
私は昨日今日と繰り返された夢の中で、現実と異なる場面が2度も続いたことが引っ掛かっていた。
私の家の玄関のドアにはチェーンなんかないのに。
そして、背伸びをしてそのチェーンに手を伸ばしたこと。これは明らかにおかしい。
170センチを超える私が、背伸びしなくてはいけないなんてことはないはずだ。
子どものころに植えつけられた記憶でもない。ずっとあの家に住んでいるのだから。
だから、あの背伸びをしてチェーンを外す感覚は私の中ではなく、どこか外側からやって来たものなのだ。
そう。例えば、母親を憎み殺したがっている子どもの意識が、あるいはそのために見ている母親殺しの夢が、
その子の小さな頭蓋骨から漏れ出て、夜の闇を彷徨い、侵食し、融解し、
私たちの夢の中へと混線するように入り込んで来るのだ。
それは夜毎に、私たちの深層意識へ吐き気のするような暗い感情を、ひたひたひたひたと刷り込んでいく。
私は教室の真ん中で肘を抱えて動けなくなった。
怖い。誰かこの震えを止めてくれ。
クラスメートたちの視線が容赦なく突き刺さる。
変なヤツだろう。私もそう思う。
しばらく固まったまま呼吸を整える。
恐怖心が霧のように散っていくのを待つ。

よし。
まだ頑張れる。
そして歩き出す。

その日の昼休み。私は自分の席にノートを広げ、これまでに集めた情報を整理していた。
まず、聞いて回った『怖い夢』について。
分かったことは、みんなかなり以前から『怖い夢を見ている』という、漠然とした記憶があったこと。
そして昨日、つまり木曜日の朝。私のように、初めてその夢の内容を覚えていたという子が何人かいる。
その夢は母親を殺す夢。
覚えている鮮明さに差はあっても、ほぼ同じ内容の夢であることは間違いない。
つまり、現実の玄関のドアにチェーンがある子もない子も一様に、夢の中では玄関にチェーンがあり、
それを外して母親を迎え入れている。
母親の顔は、それぞれの母親のものだ。
けれど、間違いなく自分の母親の顔だったかと問われると、みんな口ごもる。
それは、“母親”というイメージそのものを知覚し、朝起きてからそれを思い出そうとしたときに、
自分の中の母親の視覚情報を当てはめて、記憶の中で再構築が行われている、ということなのかも知れない。
私も夢の中でドアを開けて入って来る母親の顔に、いや、その表情に違和感を感じている。
本物そっくりだけれど、輪郭の定まらない仮面を着けているような違和感。
『違和感』とノートに書こうとして、漢字が分からず直しているうちにグシャグシャにしてしまい、目玉をつけて毛虫にした。
みんな母親を殺す夢を見たことを周囲に話していない。
確かに、他人に話しても気分の良いものではないだろう。
だからお互いが同じ夢を見ていることをまだ知らない。
どうする?注意を喚起するべきか。
それはすぐに却下する。意味がない。
せめてこれから何が起こるのか、あるいは何も起こらないのか、分かってからだ。 

もう一つ重要なことがある。
『怖い夢』を見ていたという漠然とした認識があった子もいれば、そんな認識がない子もいる。
そして認識があった子の中でも、
昨日の木曜日から夢を覚えている子もいれば、今朝初めて覚えていたという子もいるし、
そしてまだ『なんか怖い夢を見たけど忘れちゃった』という子もいるのだ。
この個人差が、あるいは霊感と呼ばれるものの差なのかも知れない。
けれど、何故か単純にそう思えないのだ。その“霊感”が影響しているのも間違いないだろう。
でも、ここにはなにか別の要素があるように思えてならない。
私は鞄から、折り畳んで突っ込んでおいた市内の地図を取り出す。
そして、一昨日から起こっている様々な怪現象の出現ポイントを、地図上にオレンジ色のマーカーで落としていく。
昨日一日にも色々と起こっていたらしい。
これまでの休み時間に恥も外聞もなく掻き集めた情報だけでも、かなりの数の異変が確認できる。
風もない緑道公園の上空を、大きな毛布がふわふわとゆっくり飛んでいたかと思うと、
急に落下して川に落ちたという事件。
資格試験のための予備校で、講師のマイクが原因不明の唸り声を拾ってしまい、授業にならなかったという事件。
住宅街の電信柱が誰も気づかない内に引き抜かれ、その場でコンクリート塀に立てかけられていたという事件。
こんな奇妙な出来事が頻発しているというのだ。
なかにはただの思い違いや、誰かのイタズラが混じっているかも知れない。
でも、ひとつひとつに取材をして確認していく余裕はない。
私はとにかく、そうした情報があった場所を地図に書き入れ続けた。

「出来た」
顔をノートから離し、俯瞰して見る。
点在するオレンジ色。一見なんの法則もないように見えるそれを慎重に指で追う。
一番右端、つまり東の端にある点にシャーペンの芯を立て、その左斜め上にある点まで線を引く。
そのままスムーズに伸ばすと次の点がある。紙を滑るシャーペンの音。 

そうして地図上の一番外側のオレンジ色を結んでいくと、そこには少しいびつな格好の『円』が現れた。
他のオレンジ色はすべてその内側にある。
想像が現実になっていくことにゾクゾクする。
次に私は、家から持って来た同級生の住所録を鞄から取り出す。
まさかと思いながらも、昨日立てた仮説に役立つかも知れないと用意したのだが、さっそく使う場面が来た。
初めて開く住所録を片手に、
今日聞いた『怖い夢』を見ていたという子の家がある辺りを、ひとつひとつ蛍光ペンで塗っていく。
木曜日に見た子。金曜日に見た子。そしてまだ内容を思い出せない子。
それぞれ赤、青、緑の3つの色を使って塗り分ける。
それらの色とオレンジ色との関連性は見つけられない。
接近しているのもあれば、全く離れているものもある。オレンジの円の外側に位置しているもさえある。
けれど、赤、青、緑には、明らかに相関性があった。
赤が最も円の中心に近く、青、緑の順にそこから離れていっている。
早い時期に夢を思い出せた人ほど、円の中心に近い場所に住んでいるのだ。

ふぅ、と息をついてペンを置く。
昨日。ポルターガイスト現象についての本を読みながら、私は考えていた。
もし仮に、街中で起きた怪現象が、それぞれ個別の現象でないとしたら。
もし仮に、この怪現象の焦点となっているのが、たった一人の人間だとしたら。
もし仮に、通常、閉鎖的な家屋の中でしか影響を及ぼさないはずのポルターガイスト現象が、
壁を越えて屋外までその力を及ぼしているのだとしたら。
そしてもし仮に、ポルターガイスト現象の正体が、
RSPK、反復性偶発性念力による無意識の自己顕示性と暴力性の発露だとしたならば……
とんでもない力だ。そら恐ろしくなるような。
市内全域のほぼ半分をその影響下に置いてしまっているなんて。
寒気が頭の芯にまで這い上がってくる。
『エキドナを探せ』
間崎京子の声が脳裏を掠める。 

怪現象を怪物になぞらえたあの女は、非常階段で話をした昨日のあの時点で、
今の私と同じ推論に達していたのだろうか。
『まさかあいつが』と思ったが、
住所録に載っている間崎京子の住所は市内の外れにあり、オレンジの円の外側に位置している。
違うな。あいつは違う。
なにより、『怖い夢』との整合性が取れない。
恐らく、想像に想像を、いや妄想を重ねているが、『怖い夢』を見ている主体こそがエキドナなのだろう。
彼女が見ている夢が、目に見えない霧のように夜の街に漏れ出て、それを眠っている私たちの脳のどこかがキャッチする。
そして、まるで自分のことのように悪夢としてそれが再生される。
その漏れ出る夢が急に強くなり、影響する半径を広げている。
そのタイミングは、怪現象が街に噴出し始めたのとほぼ同じだ。
私は地図に目を落とし、赤、青、緑の順に外へ広がっていく点を見つめる。
夜毎に蓄積されていく、身に覚えのない母親への憎悪。
そしてその悪意が殺意に変わったとき、一体なにが起こるのか。
母親の首筋から吹き出す鮮血の記憶。
危険だ。以前から漠然と感じていた不安などよりはるかに。
そして多分、エキドナは小さな子どもだ。ドアのチェーンを外すために背伸びをしているから。
彼女はなんらかの理由で母親を憎み、その状況を打破できないでいる。
そのストレスがポルターガイスト現象の原因となっている。
彼女?
そこまで考えて、ふと引っ掛かるものを感じた。
自然と浮かんだ三人称だったが、これはギリシャ神話に出てくる怪物エキドナが女だったからだろうか。
いや、私は“なった”から分かるんだと思う。夢の中で暗い部屋に一人で母親を待っている子どもは女の子だ。
その子は今もそこにいるのかも知れない。

『見つけたい』
そう思った。
見つけたとしても、救えるとは思わない。私もただの高校生1年生にすぎないのだから。
『でも見つけたい』
イタズラにせよ、RSPKにせよ、
ポルターガイスト現象の焦点になっているティーンエイジャーたちの心の叫びは、たぶん一つだ。
『ぼくを見て』『わたしに気づいて』
そんな声にならない声が世界には満ちている。
急に悲しい気持ちが胸にあふれてきて、思わず席を立った。

教室では昼のお弁当を食べ終わったクラスメートたちが、それぞれの群れを作っておしゃべりに興じている。
誰も私を見ていない。
群れを避けるように一人でトイレに向かう。
分かっている。クラスメートたちとの間に壁を作っているのは私自身だ。
でも誰もその内側に入れたくない。一人でいる限り誰にも裏切られない。
廊下を歩く上履きの音。
後ろからついて来ているもう一つの音に振り返る。
「高野さん」
高野志穂はその呼び掛けにビクリとして立ち止まった。
同じような光景を最近見た気がする。軽いデジャヴ。
「なにか用?」
つっけんどんな口調で問うと、彼女は「いや、あ、別に」と言って口ごもってしまう。
それでも顔をスッと上げたかと思うと、「最近、少しおかしいよね」と言った。
おかしいとも。クラスの連中のように噂話がしたいんなら他を当たってくれ。
そんな意味の言葉を口にすると、彼女は手のひらをこちらに向けて振りながら言う。
「あ、そうじゃなくて。山中さんが。なんていうか、いつもはもっと、周りに興味がないっていうか。
 昨日もだけど。今日も他のコに話し掛けてたし」

イラッとした。
そんなことこいつになんの関係があるんだ。
私の表情に苛立ちを読み取ったのか、高野志穂は「ゴメン」と頭を下げ、それでも意を決したような顔で続けた。
「山中さん、なにか背負い込んでるように見えるから。もし手伝えることがあったら、手伝うよ」
そう言ったあと、彼女はもう一度「ゴメン」と頭を下げて、踵を返そうとした。
その瞬間、デジャヴの正体が急に分かった。
あのときも、高野志穂は廊下で私に話し掛けてきた。
そして、『私も見たよ。怖い夢。……山中さん。ちょっと占ってくれないかな』と言った。
あれはいつだった?クラスメートが『思い出せない怖い夢』について話しているのを初めて聞いた時だ。
水曜日?いや、水曜日は学校を抜け出して石の雨の現場を見た日だ。ということはその前。火曜日だ。
私の中で微かに感じていた引っ掛かりが急に膨らんでいく。
高野志穂は占って欲しいと私に頼んだ。何を?当然夢のことだ。
そして、その時点で彼女は、私にトランプだかタロットだかで占ってもらうだけの“材料”を持っていたことになる。
「高野さん、お母さんを殺す夢を見た?」
高野志穂は驚いた顔をしたあとコクリと頷く。
「火曜日の朝が初めて?」
彼女は少し首を捻り、思い出す素振りをしたあとで口を開いた。
「月曜日」
それを聞いた瞬間、私は唾を飲んだ。
みんなより、そして私より3日も早い。私が初めて夢を覚えていたのが木曜日の朝なのだから。
「来て」と言って私は彼女の手を取り、教室に引き返した。

彼女は「え?え?」と戸惑いながらもついてくる。
教室の中に入り、私の机の中から市内の地図を取り出して広げる。
「あなたの家はどの辺?」
やけにカラフルになった地図を前にして、高野志穂は少し躊躇する様子を見せたが、
私の顔を伺ってから、人差し指をそっと下ろす。
オレンジの点で出来た歪な円のほぼ中心を指している。
円は怪現象の目撃ポイントで構成されているけれど、サンプルが少なすぎるために正確な円を作れていなかった。
所詮クラスメートの噂話だけで集めた情報なのだ。
たまたま知らなかっただけの怪現象が、もし円周の外側に付近にあったとすると、
それだけで円の形が変わり、その中心のズレてしまう。
中心にこそエキドナがいるはずなのに。
だがこれで、その中心の位置がほぼ判明した。
高野志穂の月曜日というのは“早すぎる”。だから彼女は中心から極めて近い地域に住んでいる。間違いない。
大雑把に引いた円周の線からもほとんど矛盾がない。
そこにあるのは、急激に『怖い夢』と怪現象が影響を拡大していく前の小さな円だ。
スッと彼女の指先の下にボールペンで丸をつけた。
エキドナはそこにいる。怪物たちの小さなマリアが。今も暗い部屋にうずくまって。
私は微笑みを浮かべようとして、それに少し失敗して、それでもなんとか笑って言葉を乗せた。
「助かった。……ありがとう」
高野志穂はよく分からないままに礼を言われたことに不思議な顔をしながらも、嬉しそうに「うん」と言った。

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