修学旅行

昔の話しになるんですが、私の従兄弟が中学校の修学旅行に行ったんです。
場所は京都で、泊まったのは旅館じゃないんですね。お寺の宿泊施設なんです。

そこに泊まって朝起きたら、どうも体の調子が悪い。熱を計ると熱があったんで、
先生に「今日は休んでなさい」って言われてね。

従兄弟の部屋っていうのは、男ばかりの六人部屋だったんですが、そこに一人残されちゃった。
部屋の隅に寝てたんですが、昼ごろになるとどうも具合がいい。
暇になった従兄弟は、適当に辺りをぶらぶら歩いて散策してみた。

しばらくして部屋に戻ると、なんだか気配がする。
誰かいるんだな…と思いながら、ふすまを開けてみたら、誰もいない。

あれ?おかしいな…と部屋の中を見ると、隅に敷いた自分の布団がもっこりと盛り上がってるんです。
自分は平らにしていったのになあ…と不思議に思ったんだけど、すぐに気がついた。

あー誰か自分を驚かそうと思って隠れてるんだなあと思ったんですね。
それで、逆に驚かしてやろうと思って、こっそりと近づいて行って、『おいっ』と声をかけたら、
盛り上がっていた布団がペタンと沈んじゃったの。誰もいない。
じゃあ、これは誰がやったんだろう…と妙な気持ちになったんですね。

夕方になるとみんなが帰ってきて、晩御飯になった。
その頃にはもうすっかり従兄弟も元気になってたもんですからね、部屋に帰って男六人でワイワイ騒いでたんです。

と、やがて「おーい!消灯」って声がしたんで、明かりを消してみんな布団に潜った。
ところがみんなは昼間の疲れがあるんでよく眠れるんですが、
従兄弟は昼間寝てましたらかね、眠れないんですよ。

眠れないまま、部屋の天井をジーっと眺めてる。そしてそのうち夜中になった。
で、トイレに行きたくなったんですね。

建物がお寺ですからね、なんだか気持ちが悪いなあと思うんですけどね、仕方ないですからね。
一人起きてトイレへ行った。

一段下がるとサンダルがあって、そこをまっすぐ行くとトイレがあるんですがね、
やっぱりお寺ですからトイレに明かりがついてない。

トイレに行って、スイッチをいれると、ぼんやりとした小さな明かりが点く。
誰もいないトイレはシーンと静まり返ってる。
トイレの窓ガラスは、外の暗い闇をうつしてるだけ。

もう奥まで行くのは怖いから、すぐ近くのとこでやっちゃおうかな…と思ってトイレの前まで行った。
このトイレっていうのは、古い建物ですから正面は全部コンクリートなんですよ。前には溝があってね。
それで、一段高いコンクリートに上がって、そこから用をたすわけなんです。
1つ1つのトイレには、パネルのような物で仕切りがしてあってね。

それでそこに立って用を足しはじめたんです。あたりシーンとしてる。
と、突然「う…うぅぅ…」って声がしたんで、従兄弟は驚いた。

自分が来た時にはトイレの明かりは消えていて、誰もいなかったはずなのに、声がしてる。誰かがいる。

いつ来たんだろう…気持ち悪いな…と思いながら、従兄弟は用をたしてる。
自分のしたものが溝を流れていくのを、見るともなくジッと見ていると、
溝の左側から血がすーっと流れて来る。

もう怖いですからね、早くここから出ていこうと思ってね…
用をたしおわって、トイレから急いで出て行く時に、見るともなしに見えたんです。

トイレの奥のほう。薄暗い所に灰色の学生服が見えた。
うちの学校の生徒じゃない…

怖いですからね、従兄弟は急いで部屋に戻って布団に潜り込んだ。
でもなんだか眠れない。

しばらくすると、カタッと音がした。
あれ?と思ってると、ふすまが開いて誰かが入ってくる気配がする。

この部屋は六人部屋で六人全員が寝てますからね。
誰なんだろう?と思ってチラッと覗いてみると、暗闇の向こうに灰色の学生服が見えた。

あ、あれはさっきのトイレの…と思ってると、その学生服が透けたように見えた。
その時に従兄弟は、こいつは生きてる人間じゃねえや…と思った。

怖くなって、黙ってると、その灰色の学生服を来た男が、一つ一つ布団を覗いていく。
だんだんだんだん自分の布団へ近づいてくるわけだ。

怖いですからね…来ないでくれ来ないでくれと従兄弟は寝たふりをしてる。
そのうちに、ふっと気づくと、頭のとこに気配がしてる…

すると、微かな声で、「ここだ」って声がした。
そして布団をスーッと持ち上げて、自分の横にズルズルズルって入ってきたって言うんですね。

その瞬間に従兄弟は意識をなくしたそうですよ。

同じようにここに泊まって具合が悪くなって、そのまま亡くなったどこかの中学生じゃないかな?
って従兄弟は言ってましたけどね。

こんな話しを聞かせてもらいました。

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