"そいつ"は誰?(朋月さんの恐怖体験)


※このお話は、投稿された体験談を、稲川さんが話したものです。

まず最初に断っておきますと、僕は霊や祟りという現象を全く信じておりません。 そんな僕が人生の中で唯一説明出来ない体験が、これからご紹介するお話です。 これはもう十年程前、まだ就職したてで慣れない仕事をこなす日々を送っていた頃。 僕は、そんな日々の疲れからくるものなのか、毎晩のようにあう金縛りに悩んでおりました。 他にも、夜中にふと目をさますと、天井の木目模様が自分の目の前5センチあたりに近づいて見えたり、 自分の寝息がエコーのようにダブって聞こえたりと、寝ぼけ眼で不思議な思いをする事がありました。 けれど金縛りは疲れた体と脳が不一致を起こす生理的な現象だと聞いた事もあったので、 家族や親しい友人にこの事について愚痴をこぼす事はあっても、なるべく気にしないように心がけておりました。 幸いにもこのような現象は就職先での仕事にも慣れ、職場に親しい友人や先輩も出来たおかげか、 終息にしたがって忘れていきました。 それから一年ほどすぎたある日、妹が僕におかしな事を話し始めました。 「お兄ちゃん、もう最近は金縛りにあってない?」 すっかり忘れていましたが、何をいきなり聞くんだろうと思い、それがどうしたのかと聞きました。 妹「もう悩んでないようだから話すけどね…あの頃お兄ちゃんの部屋に毎日誰か来てたよ…」 自分「え?誰か来てたって?誰が?」 妹「だからその…最初は、私もこんな時間に非常識な友達だなあ…って思ったんだけど、それが毎晩のように続くから変だなあと思っていたら、 お兄ちゃんは毎晩金縛りで眠れないって言うし、ちょっと言い出せなくてね…」 当時、僕は妹と向かいあわせの部屋で寝起きしておりました。 妹は毎晩時計の針が翌日を指す頃にベットに入るんですがね、いつも決まって妹のまぶたが重くなってきた頃になると、 階段から誰かがゆっくりと上って来る足音がするそうなんです。 しかもそれは足音や気配だけではなく、常に何かをこぼしているらしいんです。 それが何かはわからないそうなんですが、妹が言うには、それはあずきや大豆のような固い粒状の物体で、 歩く度にパラッ…パラッ…と階段の上を跳ねながら転がるんだそうです。ゆっくりと不規則に。 そして、足音もピシッピシッと冷たく硬い音で床を軋ませて階段を上がってくると、僕の部屋へと消えていくんだそうです。 さらに妹が言うには、「お兄ちゃん、そいつと毎晩何か話しをしてたよ...」というんです。 僕には全く見に覚えのない事でした。 しかし、妹は確かに僕がそいつと話しをしている声を聞いていたそうです。 妹はそいつが何を話しているのか聞き出そうとしたんですが、そいつの声はくぐもっていて結局何かわからなかったそうです。 僕のほうは、寝言とは思えない程に明瞭に親しげな口調で受け答えしていたとの事でした。 そして妹は最後にこう付け加えました。 「あの頃お兄ちゃんは夜が来るのが辛いって言ってたけど、私はもっと辛くて怖かったんだよ?」 きっとこの金縛りが僕一人の体験であれば、たんなる夢と片付けていた事でしょう。 しかし、同時期に妹が体験したこの話しを総合すると、迷信を信じない僕でも、全く説明がつかなくなってしまうんです。

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