シミと話すおばさん


この話しをするとなんだか懐かしい感じがするんですよね。
というのも、この話しは私の死んだおばあちゃんが話してくれたんですよ。

私のおばあちゃんは新潟の生まれなんですがね。そのおばあちゃんが若いころの話しなんです。
おばあちゃんの近所に一人暮らしのおばあさんが居たそうで、その方一人息子がいたそうなんですが、どこにいったかわからない。
それで一人暮らしなもんですから、おばあちゃんの家の人間がたまに面倒をみたそうなんですがね。

で、やはり歳が歳なもんですから体を悪くしちゃったんですね。
そうなりましたらこのおばあさんが家の戸を開けっぴろげて、布団を敷いてそこにごろんと横になって外を見ているそうですよ。
外を出歩く力ももうないんでしょうね。

外を歩く人間が「こんにちは」って言うと小さな声で「こんにちは」っていうようなもんで。
気の毒だなあ、体の具合も悪いし、出歩く力もないんだろうしとは思うんですけどね、
みんなも仕事があるもんだから、早々面倒もみれないもんですからね。

そんなある時なんですけど、これはおばあちゃんが見た景色なんですよね。
雨がざあっと降ってるんですよ。前を通りかかって見てみると、戸を開けたままでおばあさんが布団に横になってるんですが、
なんと傘さして寝てたっていうんですね。
雨が漏るもんだから、寝ながら傘さして寝てたっていうんですよ。気の毒になあって思ったっていうんですよ。

で、いつの頃からか、そのおばあさん布団に横になったまんま天井に向かって何か話してる。
それを見たみんなは、
「あのおばあさん、とうとうあんなになっちゃったな。話し相手がいないもんだから天井と話ししてら。何の話しをしてるんだろうな。」
って言ってたそうですよ。

はじめのうちは通りかかるとみんなも挨拶位はしてたんだけども、
そのうち誰も挨拶もしなくなっちゃった。なんとなく薄気味悪いわけですよね。

で、そうこうしているうちに「あのおばあさんもう長くはないな」ってみんなが話しているうちに、
悪い人がいるもんで、おばあさんのとこに来ては「悪いねこれ借りてくよ」って色々な物を持っていっちゃう人がいた。
借りてく訳じゃないんだ。借りていって返さないわけだ。
ていのいい盗人なんですよね。

でも、おばあさんは動けないですから、そのままやられ放題ですよね。

そのうちに気の毒にこのおばあさん亡くなったそうですよ。
身寄りがないもんですから、どうにかこうにか近所で葬式はだしたそうですがね。

で、これからの事もありますから、みんなで集まってその家で相談していたら、
そのうちに誰かが「ああ、この天井見ながらいつもばあさん話しをしてたよなあ」って言ったそうです。
それでみんなが天井を見てみると、古い家ですから天井はシミだらけ。
雨がそうとう漏ったんでしょうね。

「おい、ばあさんシミと話してたんだろうけども、よくこれ見てみろよ」
みんなが天井を見上げた瞬間に、(うぅぅ..)と思った。

天井いっぱいのシミ、それがみんな人の形をしていたっていうんですよね。
不思議ですよね…




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