親類
わたしのおばさんが入院した時の話しなんですがね、
おばさんの病室というのが、おばさんの他におばあさんが二人。
三人の相部屋なんですがね。
まあ、おばあさんが二人って言ったっておばさんもいいおばあさんですから、
平たく言えば年寄りが三人の相部屋だったんですがね。
朝おばさんが起きてね、ベットの間の仕切りになっているカーテンを開けると、
ちょうど二人のおばあさんも起きてカーテンを開けているところなんで、
「おはようございます」って声をかけた。
「おはようございます」
「おはようございます」っておばあさんも挨拶する。
と、出入り口に近い所にいる山辺さんっておばさんが、
「昨夜はやかましかったでしょ?ごめんなさいねぇ..」って言った。
おばさんは何の事かわからなかったけど、「いえいえ..」って適当に言ってごまかした。
もう一人のおばちゃんは、何を言っているんだろう?って顔してキョトンとしているんだ。
と、山辺さんっていうおばあちゃんが、
「いやあ、珍しく親類中の者が集まってくれたから..」って言った。
はてな?いつ来たんだろう?そんな様子はなかったけどなぁ..って思った。
というのもね、おばさんは山辺さんの所にお見舞いが来たのを一度も見た事がない。
で、看護婦さんにそれとなく聞いてみると、
「あぁ山辺さんですね?あの人ね、身寄りが一人もいない寂しい人なんてすよ..」って言った。
なんだか話しがおかしいなあ..と思ってた。
ところが、この山辺さんって人がこの日から容態が悪くなって、ベットから起き上がれなくなっちゃった。
それから4日程した夜、おばさん夜中にふっと目があいた。なんか気配がしている。
音がして、カーテン越しに話し声がする。
(あれ?山辺さん誰かとお話してるんだなあ..)と思ったけど、相手の声がない。
大きな声で独り言を言っているんですよね。
(ああ、元気になったんだなあ..何を言っているんだろう?)
とは思ったけど、おばさんそのまま寝ちゃった。
翌朝その病室に医者がとんでくる、看護婦さんがとんでくる。
なんだかザワザワしているから、どうしたんだろう?と思ったら、
その山辺のおばあさんが亡くなったんですね。
婦長さんが
「おっかしいわねぇ..夜中に誰か来たのかしら?椅子が並んでるわ」って首をひねった。
なんと亡くなった山辺のおばあちゃんの傍らに、椅子がいくつか並んでいたっていうんですよね。