何人いる?

心霊スポットには廃屋のラブホテルが多い。
それってなんだか面白いですよね。
後は、廃屋の病院。
これもまぁ定番なんですがね。

廃屋のラブホテルに本当に幽霊が出るという噂を聞いて興味本位で
仮に、Aくん、Bくん、Cくんとしましょうか、高校生が面白半分でやってきた。
そこは街場から少し離れた雑木林に囲まれたところに立っている建物なんですが、
行ってみると夜の闇の中、雑木林を背景にして二階建ての横に長い建物が立っている。
この建物の二階の一番奥の部屋、ここで首吊死体が発見されている。
幽霊はこの部屋に出るって言われています。

それで三人はAくんが持ってきた懐中電灯の明かり一つを頼りに入り口までやってくると、入口の戸が開いている。
そこはロビーになっているんですね。
と、そこには型の古い清涼飲料水の自販機がある。
もう錆び付いていて勿論使えないわけなんですが、辺りにはあちこちと缶が散らばっているんですね。
これはどうやら肝試しに来た連中が持ってきたものらしい。
と、Aくんが

Aくん「俺今思いついたんだけどさ。
   どうだ、ここで一人ずつ怖い話をして、それで空き缶を持って二階の一番奥の部屋に行って
   そしてこれを置いてこないか?」

BくんもCくんも「あぁそれは面白いな」という話になった。
この話を提案したのはAくんですからね、Aくんから初めに行くことになった。
Aくんが怖い話をした。
終わると空き缶を一つ拾って

Aくん「俺の缶はこれだからな」

と言って二階に登っていった。
懐中電灯を持ってロビーの奥の階段、そこに消えていったわけだ。

ギィギィギィギィ

階段がきしむ音がする。
二階に着くと辺りは真っ暗。
ホコリ臭いようなかび臭いような臭いが鼻を突く。
フッと明かりを向けると、長い通路が見える。
それでAくんはその奥の部屋を目指して歩いていった。

自分の靴音が周囲の闇に吸い込まれていく。
通路を歩いて行くとずっと部屋が続いているわけだ。
ところがどの部屋も扉が開いているか、あるいは扉が抜け落ちている。
だからひょいと中を覗くと、中が見えるわけなんです。
勿論中は真っ暗なんですがね。
なんだか気味が悪い。
何かが居そうな気がするわけだ。
歩いて行くと、うぅ!と思った。

自分の後ろに何かがいる。
それがずっとついてきているような気配がする。

(なんだろう)

闇の中をスッと見た。
振り返ると自分の後ろはただの真っ暗な闇なんですよね。
その時になって初めて(俺は闇の中に居るんだ)とAくんは実感した。

正面はまだライトを向けているからいいんですよ。
でも後ろはなんの明かりもないから、ただの黒い闇なんですね。
そうしてまた歩いていった。

そして一番奥まで行くとドアがある。
そこには吹付けの黒いラッカーで

『この部屋はやめろ』

と書いてある。
きっと誰かが冗談で書いたんでしょうけど、それを見ながら(あれ?)と思った。
他の部屋はドアが開いているか、ドアそのものがない。
だけどこの部屋だけはちゃんと閉まっているんですよね。

(あぁ、ここだな)

ドアのノブをクッと掴んだ。

カチッ  キィィィィィイ・・・

乾いた音がしてドアが開いた。
フッと明かりを差し込んでみる。
と、室内は一面埃に覆われた床が見えてその中にぽつんと一つ、黒いクッションが落っこちている。
Aくんは中に入っていった。

一歩、二歩、三歩

と、ふいに自分の首のところにヒヤッとしたものが引っかかった。

Aくん「うわぁ」

慌てて辺りを見てみると、天井の一部に穴が空いて落ちている。
そこから一本ロープが伸びていて、その先端がまるで首吊りのロープのように丸く結わえていたので(うわぁ・・・)と思った。
危なくロープが自分の首に引っかかるところだった。

(危ねぇなぁ。
 そうか、この部屋で首吊死体が見つかっているんだっけ。
 何か嫌だなぁ。
 でもすぐには戻るのも嫌なんで、もうちょっとここにいよう)

そうして辺りを見渡すと、前方にドアがある。

(あぁ、あそこに行ってみよう)

ドアのノブを掴んでドアを開ける。

ギィ・・・

そして明かりを中にひょいっと入れてみた。
そこは風呂場なんですよね。
向こうに浴槽がある。
タイルの壁が広がっている。
そこに光を当てると、明かりが反射した。
見ると洗面台の鏡があったんで、あぁと思った。

今丁度自分が辺りを照らした明かりが丁度その洗面台の鏡を照らしたんだ。
その瞬間に光が反射したんだけども、その時に反射した鏡の中から
誰かが自分をじっと見ているような気がしたので(うわぁ)と思った。

行ってみるとそこには洗面台のカウンターがあるんで

(じゃあここに置いておくか)

と思い、そこに空き缶を置いてきた。
そして部屋を飛び出した。
暗い通路をやってくる。
階段を軋ませながら降りてくるとロビーの暗い闇の中の向こうにBくんとCくんが床に腰を下ろして、壁に背を預けている。
自分の帰りを待っているわけだ。
そして「おい」と言うと「あぁ、戻ってきたか」と二人は返事をした。

Aくん「あのな、一番奥の部屋の浴室のカウンターの上に俺は一つ空き缶を置いてきたよ」

Bくん「そうか、じゃあ次は俺の番だな」

そう言うと、Bくんはそこで怖い話をした。

Bくん「じゃあ俺はこの缶な」

そう言ってBくんは缶を二人に見せた。
そして懐中電灯を受け取ると、ロビーの奥の階段に消えていった。
Bくんは階段を登っていく。
二階に着くと辺りは真っ暗。
流石に気味が悪い。
長い通路を歩いていく。
と、目の前にドアがある。

(ここか)

懐中電灯の明かりを室内に向けると、埃に覆われたその床なんですが、
Aくんが歩いたものと思われる足跡が残っている。
そしてその奥にドアが見える。

(あぁ、あれか)

そしてドアに近づいてドアを開けた。
そして懐中電灯の明かりを中に向けた。
と、洗面台のカウンターの上に空き缶が二つ乗っているわけだ。

(あれ、あいつ一つじゃなくて二つ持っていったのかな?)

そう思いながらBくんはその隣に空き缶を置いた。
そして部屋を飛び出した。
暗い通路を歩いて戻っていく。
階段を軋ませながら戻ってくるとロビーの隅の向こうの方に暗い中で二人は黙って自分の帰りを待っている姿が見えた。

Bくん「行ってきたぞ。
   おい、お前缶二つ置いてきたのか?」

Aくん「え、俺が持っていったのは一つだよ」

Bくん「え、カウンターの上には二つ空き缶があったぜ」

Aくん「嘘だよ、俺一つしか置いてないよ」

Bくん「いや、本当にあったんだよ」

Aくん「あ、お前俺を驚かそうと思って話を作っているんだろ」

Bくん「いや、本当だよ。
   馬鹿野郎、本当にあったんだよ」

そうやって二人が言い合っていると、Cくんが「おいやめろよ」と話を制した。
これから自分は行くわけですからね、そういう話は聴きたくないわけだ。
それでCくんが「じゃあ次は俺だな」と怖い話をした。
話をし終わると、「じゃあ俺はこの缶だからな」と言い、二人に空き缶を見せた。
Bくんから懐中電灯を受け取ると、ロビーの奥の階段に消えていった。

二階は暗い。
通路をずっと歩いて行く。
そして部屋の前まで来てドアを開ける。
中をフッと照らすと、埃に覆われた床にAくんとBくんの靴跡らしいものが残っている。
奥にドアが見えたんでそこへ行きドアノブを回す。
中に明かりを向けると、洗面台のカウンターに空き缶が四つ乗っているわけだ。

(あれ、Bのやつ、初め洗面台に二つの空き缶が置いてあって、その隣に一つ空き缶を置いてきたって言ってたよな。
 そうしたら三つじゃないかな)

でもそれ以上考えないようにして、Cくんはその隣に空き缶を置いた。
部屋を出ると暗い通路を歩いて行く。
そして階段を降りていく。
暗いロビーの隅で二人は自分を待っている。

Cくん「行ってきたよ。
   おい、おかしいよ。
   Bお前、空き缶を二つ置いてきたか?」

Bくん「ううん。
   俺の前に二つ空き缶があったから、俺は一つだけ置いたんだよ」

Cくん「いや、俺が行ったら四つ置いてあったよ」

Bくん「それはおかしいだろ。
   二つあるところに俺が一つ置いたんだから、三つだろ」

Cくん「四つあったんだよ」

と、Aくんがおかしそうな顔をして

Aくん「じゃあなんだよおい、今は五つあるわけか?」

Cくん「あぁ、そういうことだよな」

Aくん「じゃあ見に行こうか」

そうして三人は階段を上がっていったわけだ。
二階の暗い通路をずっと歩いて行く。
やがて部屋の前まで着くとドアノブを回した。
そして部屋の中に入って浴室のドアを開ける。
カウンターに明かりを向けると、三人は驚いた。

洗面台のカウンターに空き缶が六つある。
これにはCくんも驚いた。
四つのところに一つ置いたから五つのはずなのに、空き缶は六つある。

Cくん「おいおかしいぞ。
   本当に俺は一つしか置いてないんだ。
   だから空き缶は五つのはずなのに、どうして六つになるんだ」

Aくんは、BとCのやつが自分が居ない間に打ち合わせして自分を驚かそうと思っているので、はなからあまりに気にしていない。
Bくんはなんだか分からないような状況。
Cくんは本当に不思議がっている。

Aくん「なぁおい、じゃあさ、誰か隠れているんじゃないか?
   それで俺達の事からかっているんだよ。
   俺達が一人一缶ずつ持ってくるだろ。
   そうして隠れている奴も一人一缶ずつ持っているとするだろ。
   そうしたら六つになるじゃないか。
   あっちも三人組なんじゃないかな」

Cくんが何となく「あぁ」と相槌を打つ。

Aくん「おい、ちょっと待ってろよ」

そう言ってAくんは部屋を出て行った。
しばらくするとAくんが空き缶を抱えて戻ってくる。
そしてそれを床にバラバラとばらまいて、誰に言うとはなく

Aくん「ねぇあんた達何人いるの?
    悪いけどさ、人数分だけカウンターの上に空き缶並べてみてくれない?」

そう言うとBくんとCくんを連れて部屋を出た。
そしてそのまま三人は一階に戻った。
そして三人は黙って様子を伺っている。

シーンとして何も聴こえない。
気配も感じない。

しばらくすると
Aくん「なぁそろそろ行ってみようか」

二人は「あぁ」と頷いてついていった。
階段をのぼって長い通路にやってくる。
そして部屋の中に明かりを向けた。
部屋の中には何も変わった様子はない。
そして三人は浴室のドアを開けてフッと明かりを向けた。
途端に「うわっ」と思った。

なんと洗面台のカウンターには、その上にびっしりと缶が並んでいた。

Aくん「おい、これは一体どうなっているんだ」

Cくん「なぁ、今この建物の中に居るのは俺達だけだよな?」

って言ったって言うんですよね。

前の話へ

次の話へ