反戦家の夫婦
私は時間が出来ると、自分では心霊探訪と言っているんですけども、取材に出かけたりしているんですよ。 これはそんな取材に行った時の話です。 たまたま行った場所というのが手掘りのトンネルだったんですよね。 それでここにはある話があったんです。 というのはこれは戦争中のことなんですが、ここには小さな村があって、そこに一組の夫婦が流れてきたんですね。 村の人間とはそこまで付き合いがないんですが、様子からするとどうやら学校の先生をしていたようなんですね。 教育者なわけだ。 そしてこの夫婦というのはどうやら戦争に反対をしている反戦家というやつですよね。 でも当時の時代ですと、そういうことというのはもう命がけですよね。 何処の家でもみんな戦争に行っているわけですから。 何処の家でも亭主が行った、息子が行ったという時代です。 それで戦争に行くには兵隊になる為の検査があるわけですよね。 これは結果が甲乙丙丁とあるわけで、甲だといいんですけど、丁だと貴方は戦争には行けませんよということになるわけです。 体に何らかの障害や病気があったりすると、丁が付けられて戦争には行けないわけです。 時代が時代ですから、これは非常に不名誉なことなんです。 それでいよいよ兵隊の検査があったわけですよ。 と、その時にこの亭主というのが自分の人差し指を自分で切断してしまった。 これでは鉄砲は撃てませんよね。 兵隊にはなれないわけだ。 それでもちろん結果は丁で、戦争には行かなくてもいいですよということになった。 と、この指を切断したことをことを知っている人間がいたんですね。 それでこの亭主が自分で指を切断したことをお国に訴えたわけですよ。 あそこの亭主が戦死をした、あそこの息子が戦死をしたと、皆が自分の命をかけて戦っている時に 自分が助かりたいために自分の指を切断したわけですから、これは許されたことじゃないと。 そして亭主はすぐに捕まり、連れて行かれたわけです。 これは連行されたら生きては帰れないでしょう。 でもそれでも村人の怒りは収まらなかった。 当時のことですからね、皆がお国のために命をかけて戦っている時に自分だけ逃げようとしたわけですから、それはどうしても許されないんだ。 集団心理というやつですよね。 そして誰からともなく、許してはいけないということで、その夫婦の家に焼き討ちを掛けたわけです。 松明を持って皆でその家までやってきたわけだ。 それを察知したカミさんの方は、慌てて家を逃げ出した。 どうにか村から逃げようと家を飛び出した。 もう夢中で走っている。 群衆は家を取り囲むと家に火をつけた。 家がぶわーっと燃えていく。 当のカミさんは夜の何も見えない道を、明かりをつけたらバレてしまいますから、ひたすらそのまま走って行く。 もう足は血だらけですよ。 でもその時にフッと思った。 なにせ土地勘が薄いですからね、どうやったら逃げられるかなと。 と、やってくると向こうにトンネルが見える。 あのトンネルを越えれば向こうの村に出られるようなんですが、向こうに出れば助かるかどうかも分からない。 下手をすれば捕まって殺されてしまうかもしれない。 そんなことを考えていると、あることをフッと思いついた。 それでトンネルがある岩山を登っていった。 そしてその岩陰にフッと身を隠した。 夜の暗闇の中ですから、自分の姿は全く見えない。 見ると、空の向こうが一部明るい。 自分の家が焼かれている。 恐らく自分がいないと知ったならば群衆はこちらに向かってくるに違いない。 どうにかここから逃げなければ。 この村からさえ出ればと思っていると、向こうにヘッドライトの明かりが見えた。 それはどうやらトラックの明かりのようなんですが、それがだんだんとこちらに上がってきた。 トラックのスピードはだいぶ遅い。 ジーっと身構えていると、トラックはトンネルの中に入ってきた。 それでカミさんはタイミングを見て、そのトラックの上にポーンと飛び乗った。 そしてうまい具合に荷台に落ちた。 トラックの前の方はもうトンネルの中に入っていますからね、 エンジンの音はトンネルの中で反響してすごい音を立てているし、ヘッドライトはトンネルの中を照らしていますから、後ろのことなんて気づきやしない。 うまくいった。 これにさえ乗っていれば隣の村まで行けるわけですから、助かったと思った。 ただトラックは向こう向きに走っている。 ただし自分は後ろ向きに乗ってしまった。 どうにも揺れがあってバランスが悪い。 真っ暗なトンネルの中、向きを変えようと思った。 ところがここは手掘りのトンネルなんですよね。 だから向きを変えようと体をあげた瞬間、尖った岩に顔面を打ち付けてしまった。 顔面が割れる。 そして血を吹いてカミさんはそのまま倒れた。 トラックの荷台の上で血を吹きながら、全身を血に染めながら、トラックは女の死体を乗せたまま走り去っていった。 この女はとうとう生きてこの村を出ることは出来なかった。 それでそのトンネルなんですがね、戦争が終わり年月も経ったんですが、妙な噂があるんです。 というのは夜このトンネルを通りかかると、ポタポタと雫が落ちてくる。 手掘りのトンネルですから何かが落ちてくることはあるんですが、額に落ちた雫を払おうと思って手をやると、 ツンと何かが臭う。 そしてそれを見ると、手は真っ赤に染まっている。 血の匂いがするんですよね。 トンネルの上からポタポタと血が降ってくると言うんです。 赤く濁ったものが降ってきて、それは血の匂いがする。 中には、何かが落ちてきたからフッと明かりを向けると声を上げて逃げ出したものも居る。 岩の間には赤く潰れた女の顔があって、ジーっとこちらを見ていたと言うんですよね。 でもね、これには科学的なワケがあるんですよ。 岩を掘った手掘りのトンネルじゃないですか、どうやら鉄分を含んだ水が落ちてくるようなんですよね。 それで色が赤く付くわけだ。 この鉄分を含んだ水なんですが、これっていうのは血の匂いにとても似ているんだそうですよ。 フッと見上げると潰れた女の顔がある。 それは丁度岩がそういう具合に人の形のように染み込んでいる。 ようするに現れている場所なんですね。 ようは滲んでいる岩の色、そして落ちてくる鉄分を含んだ水、これがその話を作ったらしんですがね。 でも村の人は本当にこのトンネルには逃げようと思っても逃げきれなかった女の怨念が今でも生きているって言うんですが、 実際のところはどうなんですかね・・・。





