郵便物

奈良に住む私の知人で、山口さんという三十代の方なんですがね。
この人が霊感が働く方なんです。
それであれこれと人から相談を受けることがあるんです。
でも別にこれを商売にしているわけではないんです。
そんなある時なんですけど、友達の有賀さんという方から電話がかかってきて、

「今ちょっといい?
 俺さ、ちょっと困ったことが起きてるんだ」
と相談をしてきた。

それというのは、この有賀さんという方は奈良の市街に住んでいるんですが、
仕事の関係で同じ奈良の違うアパートに引っ越したんです。
それは引っ越してまもなくのことなんですが、全く面識のない若い女がやってきて

「すいませんが、私宛の郵送物が手違いでこちらに配送されてしまったそうなんです。
 もし届いたら預かっておいてくれませんか」
と言ってきた。

まぁ預かるだけですから了承したんですが、一体何なんだろうなぁと思った。
それで初めにこの女は自分の名前を名乗ったんですが、突然の事だったから聞きそびれてしまった。
聞き直そうかと思ったし、連絡先も聞こうと思ったんですが、相手が若い女ですからね。
何だか憚られて、やめておいた。
郵送物が届けば、宛名は自分宛てだと言っているんで名前は分かるだろうし、まぁいいかなと思った。

「えぇ分かりました」と言うと、女は帰っていった。

それから二日ほどしてその郵送物が届いたんですが、有賀さんはそれは小包だろうと思ったんですが、そうではなかった。
多少厚みのあるずっしりとした封筒なんです。
何だろうなと思ったけども、人のものですから預かっておいた。
ところが三日経っても四日経っても女は現れない。
そしてとうとう一週間が経ってしまった。

(弱ったなぁ・・・いつもアパートに居るわけじゃないしなぁ。
 連絡先を聞いておけばよかったなぁ。)

連絡先を聞いておけば、届きましたよと言えるんですがね、連絡先は分からない。
その郵便物の住所というのは自分の住所なんですよ。
それで、外国から自分に宛てた郵便物なんです。
だからもしかしたらこの女は昔この部屋に居た女じゃないかなと思った。
それだったらもしかしたら大家さんに聴けば何かが分かるかもしれない。
それで封筒を持って大家さんのところに行ったわけだ。

話をすると大家さんが何だか怪訝そうな顔をしたんで
「これなんですけどね」
と言って、その郵便物を見せた。

大家さんは封筒を見てフッと顔色が変わった。

「あぁ、この人は昔、あなたがあの部屋に入る前に居た人なんですけどね」

「あぁやっぱりそうなんですか」

「それで、その人はどんな人でしたか?」

「身長は1メートル62,3センチ。
 細身で目鼻立ちがはっきりしていて、髪の毛がサラッとしていて若い綺麗な女性でしたよ」

そう言うと、大家さんは青ざめた顔になってしまった。
多少震えている。

「ま、間違いないです・・・。
 その人は本人です」

そりゃそうに違いないんですよ。
だって自分のところに来て、自分宛ての郵便物が届くって言っているんですから。

(おかしなことを言うなぁ)

そうすると大家さんが
「あのね、この人ね・・・恐らく亡くなっているんです」

「えっ、どういうことですか!?」

今度は有賀さんがびっくりした。

「いやね、この人がうちのアパートに来た頃には本当に可愛らしいお嬢さんでしたよ。
 挨拶もきちんと出来るし、立ち話なんかもよくしていたんですよ。
 それがいつの頃からか、何だか様子が変わってきましてね。
 何だかおかしなことを言うようになったんです。
 それで、何かの宗教にでもまさか入ったんじゃないかと心配していたんですがね、
 そうしましたら二ヶ月ほど前にインドの友達のところに行くって言って出かけてしまったんです。

 その話を聞いた時は一週間ほどの旅行なのかなと思いましたけども、
 一週間たっても、二週間たっても帰ってこないんで随分長い旅行だなぁと思っていたんです。
 そう思っていたらひと月ほど経った頃、警察がやってきまして。
 『この娘さんの部屋を見せて欲しい』と言うんです。
 それで何かと思って聞きましたら

 『実はこの娘さんがインドの友達のところに行って、
  二週間ほど経った頃一人で出かけたんだけども、帰ってこない。
  消息が分からなくなってしまった。
  それでインドの方でも捜索願を出したんだけども、全く足取りが掴めないんですよ。
  恐らく、事故か事件か、何かに巻き込まれて亡くなっているか、
  この人殺されているんじゃないかと考えているんです』

 と警察は言ったんですよね。
 麻薬関係か何かですかねー」

「えっ、死んでる!?
 ちょっと待って下さい!
 ということは、自分のところにやってきたあの女は、誰なんですか?」

大家さんは青ざめた顔で
「それはもしかしたら・・・亡くなったそのお嬢さんの幽霊じゃないですかね」

有賀さんは驚いた。
そんなことってあるのかと思った。
冗談じゃない。

「それは本当なんですか?
 自分が会ったのは生きている人間じゃないんですか・・・?」

その女は自分に、荷物を預かって欲しいと言ったわけだ。
ということは有賀さんがその郵便物を預かっていると、この死んだ女の幽霊というのは必ず受け取りに来る。

(どうしよう・・・)

有賀さんは困り果てているときに、山口さんという霊感の強い人が居ることに気がついた。
それで山口さんんい電話を掛けた。

話を聞いた山口さんが
「おい、お前の携帯電話、テレビ電話の機能が付いていたろ。
 それでお前の部屋の中を映して俺に見せてくれないか」

有賀さんはそう言われ、部屋の中をずっと映した。
すると山口さんが、
「おい、そこで止まってくれよ。
 少し戻してくれないか」

有賀さんは山口さんの言うとおりにカメラを動かす。
と、山口さんが

「有賀、お前その部屋を早く出たほうがいいぞ。
 そこにずっと居るとまずいことになるぞ・・・。
 その部屋はな、誰かが居るんだよ。
 お前は気づいていないだろうけど、今お前が映している目の前なんだ。
 指先が白くて、黒い輪郭の女が立っているんだ。
 この女は、死んで焼かれているぞ」

有賀さんは
(うわー、嫌だ嫌だ嫌だ。どうしようどうしようどうしよう)

有賀さんは慌てて封筒を持って大家さんのところに向かった。
その時、有賀さんはふと疑問に思った。

初めて封筒を持った時には厚みも重さもあった。
それが今はうっすらとしていて、何だか軽い。
大家さんのところへ行き

「大家さん、申し訳ないんですけども、その訪ねてきた警察官のところへ連れて行ってくれませんか。
 この封筒は、その警察官の方に渡したほうがいいと思うんです」

それで有賀さんは大家さんと二人で警察に行った。
警察には女が訪ねてきたことは言わないで、
「こんな封筒が自分のところに届いたんですが・・・」
ということにして渡した。

と、その警察官が立ち会いになり、その封筒を開いてみた。
封筒の中にあったのは僅かな灰色の粉だったそうですよ。
それは麻薬ですか?と警察官に聞いたんですが、調べてみると、それは人を焼いた後の灰だったそうです。
ということは、若い女は既に霊となってあの部屋に居たんですね。
それで受取人が不在で居ないと困るんで、有賀さんにお願いをしたんですね。

有賀さんは郵送物が届いて女が来るのを待っていましたが、女はもうとっくに中身を受け取っていたんですね。

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