見つめる白髪交じりの年配の男

毎年夏の深夜に放映されるテレビの特番なんですがね、
何処か怖い場所に行って浴衣ギャルを前にして、私が怪談をするという番組なんです。
それでその時も局の方から「ロケの場所が決まりました」と連絡が来たんです。
そこは私も知っている場所だったんで、「じゃあ現地で落ちあいましょう」と行って、私はマネージャーと二人で出かけていったんです。

そこは東京の郊外にある小高い丘が連なったところに建っている五階建ての白い建物なんです。
この建物は元々病院だったんですが、何かの事情で営業を停止してしまったんです。
それで今は使われていない建物なんだ。

まぁ後々は総合病院として復活するという話は聞いていたんですが、
行ってみるとそこは急な斜面の上に建っていて、夜の暗い背景をバックにして、
鬱蒼とした木に囲まれている白い建物がそびえ立っていたんです。

もう看板は外されていたんですが、これはすごい迫力だなぁと思ってね。
傾斜のきつい坂道を登っていって、建物の裏の駐車場に車を停めたんですが、まだ車は一台も来ていない。
どうやら撮影隊が来るのが遅れているようなんで、

「じゃあ管理人室に先に行って、管理人に挨拶でもしておこうか」と
マネージャーと二人で車を出たんです。

そうしましたら、感じの良い年配の男が一人居て、
「ご苦労さまです。建物の中なんですが、もう開いていますので、いつでも入れますよ」
と言うんです。

それなら先に下見をしておこうかなと思いましてね。
マネージャーの方は行きたくないというんで、私は一人で言ったんです。
扉を開けると非常用のランプがついていて、中をうっすらと照らしているんです。

(あぁ、ここが受付で、あっちは待合室なんだろうなぁ)
そんなことを思いながら辺りを見ていると、長い通路があったんです。
その奥には階段が見えている。

非常用の灯りしかついていないんですが、何かの灯りで建物の中がうっすらと照らされているんです。

(ちょっと行ってみようかな)
そう思って歩いていった。

建物は人家から離れているし、丘の上に建っているんです。
そして辺りには木々が立ち並んでいるんで、全く音が無いんです。
聴こえる音は私が出している音だけ。

それで階段の下まで行って見上げると、どうにか辺りが見えるんですよ。

(どうしようかなぁ。上がってみようか)
階段を登っていった。

二階につくと、辺りがうっすらとやはり見えるんです。
それで建物の中央、そこは壁が仕切られていて、部屋がずらっと並んでいる。
もう一方はというと、ガランとした大変に広いスペースになっていて、壁際や窓際にベットが押しやられているんです。
窓からは夜の暗い闇が見える。
それで、黒い闇の中の遠くに高速道路の明かりが見えるんで、何となくそれを眺めていたんです。

と、私の後ろで誰かが階段を上がってくる足音がする。

(あぁ、管理人さんが登ってきたのかな・・・)

でも足音は二階を通り越して登って行っちゃった。
と、しばらくするとまた足音が階段を登ってきた。

「稲川さん」

そう声をかけられた。
振り向くとそれは管理人さんなんですよね。

「稲川さん、ちょっとこっちへいらっしゃい」

そう言って管理人さんは階段を登って行っちゃった。
そして私も後をついていってみた。
階段を上がっていって丁度三階の踊り場のあたり、丁度小さな灯りがついている。
管理人さんの隣には、丁度同じくらいの年格好の白髪交じりの年配の男の人が立っている。
と、管理人さんが

「稲川さん、丁度この辺りでもってうちの連中たちが年配の男の人の幽霊を見ているんですよ」
「ここで?」
「そうなんですよ。なんかね、灰色のシャツを着て、ベルトの無い同じ灰色のズボンを履いているって言うんですよ」
「はぁ・・・じゃあ、その人は襟のないボタンのたくさん付いているようなシャツを着ている?」
「あぁ、そうそう! そうなんですよ!」
「それって・・・ユニフォームですかねぇ」
「いや、多分入院患者の衣装じゃないですかね。稲川さん、どうですか下でお茶でも」

そうして管理人さんが促すから、階段を降りていった。
と、管理人さんがカチッと灯りを消して後から降りてくるんで聞いてみた。

「あれ、あの人いいんですか?」
「はぁ?」
「いや、あの人まだ上に居るのに灯りを消しちゃっていいんですか?」

管理人さんは不思議そうな顔をしている。
私がひょいっと上のほうを見ると、その振り返った階段の丁度上の方から白髪交じりの年配の男がジーっとこちらを見ているんです。

(あれ・・・なんだかおかしいな)

そう思っていましたら、管理人さんが言った。
「稲川さん、今この中に居るのは・・・私と稲川さんだけですよ」

(あぁ。やっぱりな)

それで私は管理人さんに聞いてみたんです。
「あの、さっきの幽霊は何歳くらいなんですか?」
「話によると、白髪交じりの年配の男の人だって言ってましたよ」

それを聞いて、私またフッと上の方を見上げたんです。
でももうその男の人は三階に居ないんです。

(あぁ、そういうことか・・・)

そう思い顔を元に戻した。
そうしたら管理人さんがジーっと私のことを見ていてね。

「稲川さん、もしかして・・・見えたんですか?」
「えぇ、私さっき襟なしで、ボタンがたくさんついた・・・って話をしましたよね。
 私何となく、その人のことを見て言ったんです。
 その人、管理人さんの隣に立っていたんで、私はてっきり同じスタッフの方かと思いました」

そうしたら管理人さんはうわっと顔色を変えて、慌てて降りていっちゃった。

私が見た白髪交じりの年配の人。
それが管理人さんの言っていた幽霊だったんですよね。

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