豹変

これは怖いですね。頭っから馬鹿にして見くびったりなんかしたら大変な事になりますよね。
っていうのもねえ、わたしこれある想いがあるんですよ。あったんですよ実際に。

昔の事になります。わたしもまだ若かったんですが、その頃の事になります。
当時はまだ心霊やなんだって話しがされない頃でした。
逆に、そんな事を言おうものならば、あいつはちょっとおかしいんじゃないか?って言われるような
そんな時代だったんですよ。

その頃に、ある局で特番組んだんです。霊が出る場所に行くっていう企画で。実際に行ってみたんです。
この時はまだレポーターって言葉はなかったんですが、若い女性のタレントさんが2人行ったわけだ。
それぞれ別の場所での撮影で、そこに行ったんですね。

一人のタレントさんのほうは、お父さんが大変有名な芸能人で力のある方なんです。その方のお嬢さんです。
撮影が終わってお嬢さんが帰ってきたら、お父さんのほうから局に電話が入ったんですよ。
「どうしてくれるんだうちの娘!お前たち一体何をやったんだー!」ってえらい剣幕なんですよ。
娘がおかしいって言うんですよ。

こりゃ、テレビ局のほうも大変ですよ。飛んでいったわけだ。
そして病院へ連れていった。それでどうにかこうにか、この方助かったんですよ。

ところがもう一人の方ですよ。
この方はどういう所へ行ったかっていうと、いくつか行ったんですが、最後に行った場所っていうのが滝なんですよ。
これが有名で自殺の多い滝で、昔から何かと話しがある場所なんですよ。
滝が流れているその中間あたりに、ちょうど岩が突き出ているんですよね。
そこに人立てるんだ。そこからみんな滝壺目掛けて飛び降りるそうなんですがね。
その上から中継をしろというわけなんですよ。

ですから正面を向きながら中継をすると、滝が背になるわけだ。
絵にはなるけど、気持ち悪い。逆に言えば最高にありがたいアングルなんですよね。
彼女も怖がってるわけだ。これはいけるかなあ..とテレビ局側は思った。
もちろん、そう簡単に幽霊なんて映るわけないですから、彼女が怖がってくれればそれで撮影は大成功なんですよね。

それで、撮り始めようかって事で、彼女はマイクを持って岩の上に立ったわけだ。
時間は深夜ですよ。うっすらと照明が透けてるわけだ。

で、彼女がマイクを持って話しはじめる。すると、彼女が、
「やだ、来てる!やだ来てるぅぅ..やだー!来ないでー!」って言ったんですよ。
お!いけるなってテレビ局側は思ったわけだ。

「やだー来ないで来ないで来ないで!助けて!」って彼女はしゃがんじゃったんだ。
テレビ局側は、おおいけるね!あの子面白いね!なんて喜んだわけだ。

「うあああ..やめて!来てる来てるー」って彼女は絶叫しながら震えてるんですよ。
そのうちに「ぎゃあああああああああああああああああああああ」って悲鳴をあげた。

おお、いけるいける!!!ってカメラはぐっと近づいたわけだ。彼女はまだ悲鳴をあげてる。
バタンバタン暴れてるわけですよ。

すごい絵ですよ!彼女いけるなあ..なんて言ってて、

「はい!OK!カット!」
でも彼女はまだ叫んでるんですよね。凄まじい形相で、顔真っ青ですよね。
もう血の気は失せて、ブルブル震えてるわけです。

「オッケーだよ!もう終わってるよ!」って言っても、彼女はまだ震えてるわけだ。
目が上をむいて、すっかり様子がおかしいんだ。

「おい!しっかりしろ!おい!おい!」やっぱり様子がおかしいんだ。
とりあえず車に乗せたわけだ。
治らない。そのうちみんな心配になったわけだ。冗談じゃないんだ。

はじめは、みんな余韻でそうなってるんだと思った。でもそうじゃないんだ。
落ち着くだろうと思ったけど、落ち着かないんだ。
そのまま病院ですよ。病院に行っても手に負えないわけだ。
それで、これは違うと。普通の内科、外科の問題じゃないと。

それで、その専門のほうに行ったわけだ。
その専門のほうで、申し訳ないけどって事で、そのまま施設に入れちゃったんですよ。

その女性ですけど、とうとうその施設に入ったきり、二度と出て来なかったんですよね..

それでその時に、テレビ局の関係者何人かが辞職しているんですよね。
わたしそれ見てるんだ。

甘い気持ちや軽い気持ちでもって、あまり馬鹿な事はしないほうがいい。
実際にあの状況を見た人間だと、簡単にそんな事出来るもんじゃないですよ。
とり憑かれたら怖いですよ~。見くびっちゃいけないですよね..

わたしそんな事に関係した事があるんですよね。
だから、いつも真剣に向きあってますよ。

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