暗闇の中で

 
1376 :名無しさん:2011/09/30(金) 19:40:31 ID:zMeJIXCM0
一人で住み始めて2年目の春。マンションの5階だったんだけど、その日は大分遅くなって
帰ってきた。そしたら部屋の中がじんわりとした感じで生ぬるかった。変なにおいもするし、
なんかおかしいなと思ってそのにおいの元を辿っていったら、台所からだった。なんだろうと思って
ひとしきり見たけどいまいち分からなかった。ただ異様なにおいがした。魚というかなんというかそういったものが
腐ったようなにおいだった。建ててからそこそこ経つしねずみの屍骸でも湧いたのかなとか
考えてたら、突然家の電気が落ちた。
ブレーカーは洗面所にあって、そこまで遠くなかったから壁伝いにいったんだ。で、
やっとこさ洗面所について、ブレーカーに手を伸ばした。暗い中で手探りに主電源を探した。そしたらブレーカーは落ちてなかった。
俺は怖くなって風呂場の窓を開けて他の部屋を見た。そしたら、案の定他の部屋の電気はついてて、うちの部屋だけが他よりも浮いてたんだ。

全身に怖気が走った。足元から冷えてくる感じが分かった。人間が暗いところを恐怖するってこういうことなんだろうってのが肌で伝わった。
それからしばらく頭を抱えて動けなかった。出来るだけ外の世界を見ないようにして。そしたら遠くで明かりがつく『パチン』って音が聞こえて
パッと見たらリビングの電気が回復してた。それから順に台所、トイレ、部屋、玄関と電気が回復して明るくなった。俺はなんかすごいほっとして、
同時に自分でも驚くくらい情けなかった事に対する恥ずかしさが湧いてきた。で、リビングに帰ろうとして気がついた。風呂場は回復しているのだろうか。
俺は恐る恐る電源を入れた。でも、そこだけはまだ回復していなかった。
他の部屋が回復しているのが後押しして何度も何度もスイッチをつけたり消したりしてた。でも、つく気配がない。電球が切れたんだと思った。

最初は。でも、俺が思ったより酷い末路だった。
俺も疲れてきて、ここの修理はまた今度頼もうと思って素直にリビングに戻ろうとした。その瞬間、背中に抉るような悪寒を感じた。後ろには洗面所の鏡がある。
振り返っちゃいけない。体に直に伝わってきた。でも、指をスイッチに押したまま動かないこの恐怖から逃げ出したいって気持ちが勝って振り返らずにスイッチから指を
離した。そしたらなんとなく背中から気配が消えた。安心して電気をつけようとして反対のスイッチの方へ眼を向けたとき、鏡と向き合う形になった。
そこに、首へと伸びる長い腕があった。 

右手中指と薬指、左手親指と小指がない手は真っ直ぐに俺の首筋へと伸びてた。やばい、と思ったときにはもう遅くて、ものすごい力で首を絞められた。
すこしの間地面から足が浮いてた気がする。頭が真っ白になる感じがし始めて腕にも力が入らなくなりかけてた。
その時ふと洗面所のスイッチに眼が行った。俺は最後の力で洗面所のスイッチを押したんだ。そしたら電気がついて、首に巻きついてた腕がスッと消えた。
しばらくは恐怖で息が出来なかった。その日は部屋じゃなくてネカフェで寝た。
次の日、家に帰ったら大変な事になってた。俺の部屋の一つ上の部屋が全焼してた。住人はまだ帰ってないというか昨日から音信不通だとか。
幸いその部屋以外はたいした被害もなかった。じゃあ昨日のも俺の部屋の臭いじゃなかったんだなとか思ってた。

それから3日後くらいに部屋に入れた。部屋は前と何も変わらない感じで少し安心した。久々の自宅で疲れが一気にきて、そのままベッドに直行
した。ふかふかで、そのまま眠りこけそうになってた。
そしたら、台所のドアが「キィィ・・・」って音をたてて突然開いた。その瞬間、急に鼻につく嫌な臭いがあふれ出てきた。前と同じ、魚というか
なんというかそういったものが、腐ったような臭いが。
俺は勇気を出して台所に入った。上の階が焼けてるのに、ガスの元栓が開いてるんじゃないかと思った。そんな事は普通ありえないんだけど、
確認するまでは落ち着かなかった。思い切ってキッチンシンクの下の観音開きのドアを開けた。
本当に強い腐臭がして、吐き気を催した。ここが根源だと一瞬で分かる程度にくさかった。俺はTシャツで口と鼻を覆って中を調べた。そしたら、
見つけてしまった。ガスの元栓のふたがとれ、何か詰まっているのを。
ねずみかと思った。でも違う。複数居る。しかもでかい蛭・・・・?カブトムシの幼虫くらいの大きさ。認めたくはなかった。でも、ライトで
当ててしまった。それがくっきり見えた。
人の手、だった。
俺は本当に泣きそうになった。幽霊とかそんなんじゃなく、人の手だった。
俺は涙目のまままだ観察に来ていた警察の関係者に話して見に行ってもらった。それから数日は家に入れなくて、警察でいろいろ聞かれた。

部屋に帰ったらもう異様な臭いはしてなくて、ガスの元栓も新しいものに変わってた。
詰まっていた手の事に関してはあまり詳しくは話してくれなかったが、両手が詰まっていたらしい。指が数本なくて、中指と薬指、それから親指と
小指だったらしい。
それから、もう一つ。上の階の住人が見つかったかどうか聞いたとき、「ああ、見つかりましたよ。」
             あなたの部屋からもね。
とだけ。未だに意味はわからない。

前の話へ

次の話へ