山道ですれちがった老夫婦

508 名前:① :02/10/19 22:49 
=== 山道ですれちがった老夫婦 ===

最近、登山に出かける事が多くなりました。元々学生時代に
山岳部に所属していた事もあってか、自分の意志でと言うより、
この景気の悪い時代、仕事場の先輩方々が始め出して、
何かと水先人を勤めさせられる、いわゆる「同行、付き添い」と
言った感じです。目的地に至るまでの交通費ぐらいで、殆ど
他に費用がかからないと言えば経済的な道楽ではあるのですが、
やはり、山々を歩いていると恐ろしい事や、不思議な事に遭遇
する物です。今回はどちらかと言うと、「不思議な出来事」にあたる
かもしれません。
先月(七月)31日の出来事です。やはり同じメンバーで青森県にある
おそらく県下では名高い山へ出かけました。ただ、そんなに高山
ではないので、麓の温泉宿を基地に「日帰り」で充分帰ってこれる
ルートではあります。朝8時に出発して、様々な方達とすれちがい、
挨拶しながら、(山道ではたいがいの方が挨拶してくるし返す)
山頂で昼食をとり、反対側に下山をして途中の源水地でおいしい水を
飲みながら一時間程休憩すると、時間はもう2時をまわっており、あとは
ただひたすらもとの出発地の温泉場まで下るだけです。
殆どの人たちはこの我々が下りに選んだルートをなぜか登りに使う様です。
なんでも、地図や案内にその様に誘導されて来るらしく、来てみてから
実際の環境を見て後悔する方も多いかと思うくらい険しい道でした。 

ただ我々は「下る」ので、ひたすら勢いに任せて歩いていましたが、やはり
地図上の行程時間表示よりはるかに時間を必要としました。さすがに
一気にはと勇んでも疲れるもので、途中小休止する度に後ろを振り返り、
今まで降りてきた道を見上げると「こりゃあ、とんでもないな!もしここから
登りなおしても、再び山頂にたどり着く頃には日が暮れてしまうだろう!」
なんて会話していた地点で時間は3時をまわっていました。そして再び
歩き始めて30分位経過した所で、下界の建物の屋根などが見え隠れ
し出した頃の事です。一組の老夫婦が登って来る姿がありました。
通常、山は登り優先なのですれちがいざまはこちらが止まってあげて
やり過ごすのでしたが、この時だいたい「こんにちは」とか「頑張って下さい」
などなんらかの挨拶事を交わすものですが、我々がそうする事への反応は
全くありませんでした。先に歩いてきたのは男性で、年のころはだいたい
少なくみても75歳以上はいっていると言う風体で、この暑い時期に登山を
やる方には考えにくい程日焼けもしてなくて、顔は青白い方でした。その割には
登山家の間ではおそらく最大級のサイズらしきザックを背負い込み装備から
いくと、普段でも活動していなければとうていあのくらいの年齢層には背負う事
など出来ない筈?とにかくこちらがお年寄りな事もあってやさしく声をかけても
表情ひとつ変えず、こちらの顔も見ようともせず、まるで何か別の物をずっと
凝視している様な感じで去っていきました。その後50mくらいおいて、今度は
妻君と思われるお婆さんがやって来ました。通常どうしても女性の方が体力的にも
遅れるので、とりわけ違和感と言う物はなかったのですが、こう言った場合、普通は
一番遅い人を前においてそのペースでカバーしてあげる物なのですが、なんとも
「冷たい旦那だなー」などと思いつつ、やはりすれちがいざまに挨拶すると、
こちらも無表情で、しかも何やら訳のわからない念仏みたいな言葉をとなえて
去っていきました。やはり表情は青白くて生気がないと言った感じでした。 

そしてこれまた女性が背負う量をはるかに超えているではあろう大きさの荷物?
いったい何が入っているのであろうか?どう見ても30Kg以上はありそうです?
その後、ほんの数秒間の沈黙を後に再び歩き始めた時に同行者の I さんが
ふと何気に言い出した途端に我に返ったのですが・・

「おい、今何時だ?あの二人とうてい今日中にはどこにも
抜けられないぞ!今この場所から上を目指してもさっきのあのスピードでは
絶対に無理だよなぁ?夜営するつもりであってもここにはその様な場所って
設けられていないし、(テントをはる場所もありません、)熊だって出没多発な
ここでどうやって過すんだ?」

そう言って心配になり再び振り返ると、道はひたすら真っ直ぐな所であり、
まだまだ見える筈の二人の姿は形もなく、ただ日暮セミの鳴き声だけが
鳴り響いているだけでした。でも、その後ふと思い出して I さんに言葉を
返してあげました。

「もう、16時をまわっています。そうですね?いったい何者
なんでしょかね?あれじゃ普通の方々より3倍は時間かかるとしても、上まで
行ったら夜中の21時ではすまないでしょうね?」ただ・・・

「降りてくる途中、何年前まで使っていたか解らないけど、使途不明で、意味のない
地点に朽ち果てた山小屋に鍵がかかっていたじゃないですか?何の目的で
建てたか知りませんけど・・?
あそこまでなら何とかたどり着くと言うか、ちょうどいい距離ではありますよ、
正体はこの世の方でなくてもきっとあそこの管理人なんですよ?それも何十年も
通って・・きっと若いころからずっと二人して・・?今では我々は利用
出来そうもないけど、いつか避難者やお客さんが来る事を信じてああして
手入れの為の資材でも沢山担いで登ってくるんじゃないんでしょうかね?」 

山歩きをしていると、その場では恐ろしい事や不思議な事に出くわしても、
あまり実感が込み上げて来ないんです。むしろよくありすぎて慣れてしまって
いると言うか、逃げ場のない環境で自らの恐怖心が閉ざされてしまっているのかも
知れません。だから案外と現場で平気にもこう言った話など、仲間内では違和感無く
交わす事など多々です。でも時間が経ち、今こうして書いている時の方がかえって
思い出す物です。「よくあの様な場面で普通にしていられたなあ?って。」

後々思い出せばあの二人、すれちがう時になぜか足音が聞こえてこなかった
様な気がします、普通重い荷物に登山靴の装備ではそれこそスコップで地面を
つつく様な状態になるので、当然意識していなくても耳に入ってくるか、記憶に
迷いなど生じない物なのですが、それがはっきりと否定的な記憶でしかないんです。

◆コピペ終わりで~す、長くてスマソ◆

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