叔父

515 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ :02/08/16 14:29
自分がまだ小学生低学年の頃、夏の暑い盛りに夕張にいる叔父 (父の兄) が脳溢血で急死した。
亡くなる前の晩、その叔父は仕事から帰ってくるなり
「あぁ喉渇いた。カルピスくれぇ」
と、普段は殆ど口にしたことがないそれを玄関先で靴も脱がずにゴクゴクと一息で飲み干してしまったそうだ。
その後、調子がすぐれないと言って叔父は夕食も摂らずに床に就いてしまった。
結局カルピスが末期 ( マ ツ ゴ) の水になってしまった。
翌日の朝、叔父は布団の中で冷たくなっていた。

父一人が叔父の家へ通夜~葬式に出かけていった。
帰ってきた父から聴いた通夜の晩の話。 

すでに訪れる弔問客もなくなったような時間。
十五人程の親類縁者達は棺の置かれた部屋で酒を酌み交わしている。
こういうことでもない限り集まる機会のない父の兄弟達は昔話に花を咲かせていた。
十一時を回った頃。
話は尽きないが明日の事もあるしそろそろ寝るかという声があちらこちらであがる中、
「あっ!」突然叫び声があがった。
皆一斉に声の方を振り向くと遠縁の部屋の中央にある座卓に向かっているAさんが前を見つめている。
囲んで座れば七、八人は座れそうなその座卓の上には真中にガラスのコップが幾つか伏せてあった。
そのうちの一つが
 スッ・・・スススッ・・・ススッ・・・
少し動いては止まり、少し動いては止まりながらゆっくりとAさんへ向かって動いていく。
座卓の上は特に濡れている様子もない。
「・・・・・」皆、声も無くそのコップを見つめている。
 ススッ・・・ススッ・・・・・・コトッ
とうとう座卓の上から落ちてしまった。
コップを拾い上げて繁々と見つめるAさん。沈黙がややあって、
「仏さん、喉が渇いてるんだべ。水、供えてやれや」
「いやぁ兄さんのことだから酒の方がいいって」とまわりから声があがる。
Aさんは座卓の上にあった日本酒を手にしたコップに注いで仏前に供え、手を合わせた。

Aさんが座っていたところは、死んだ叔父が毎日食事を摂っていた場所だった。 

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