独演会

170 :虚の中の男 ◆AFcPKj5UhQ :2006/12/07(木) 06:06:56 ID:1G1MFbKd0
『 かくれんぼ 』 


夏休みに入り、お転婆娘のSちゃんは毎日のように、友達といっしょに山で遊んでいた。 
中には知らない子もいた。夏休み中にこっちの祖父母の家に帰省してきた子だ。 
そんな子たちとも、分け隔てなく仲良く遊んだ。 

ある日、里山にクワガタ獲りに行ったが、なかなか獲れなかったので、あきらめて、かくれんぼをして遊ぶ事になった。 
山の中とは言え、近くには墓場や納屋があり、隠れる場所には困らなかった。 
この時は五人ほどで遊んでいたのだが、いつの間にか、青い浴衣姿の男の子が加わっていた。 
初めて見る子だったが、特に気にせず仲間に入れてあげた。 

「も~ い~ かいっ?」鬼が問う。「「ま~ だ だよっ!」」一同が答える。 
Sちゃんは墓場横の雑木林を隠れ場所に選んだ。周囲には不法投棄のゴミが散乱している。 
空き缶や紙クズだけでなく、古いラジカセ・テレビ・エアコン… そんな物まで捨ててある。 
困った人もいるもんだ、と思っていると、そこへ例の浴衣の子が来た。 

浴衣の子は、捨ててある冷蔵庫のドアを開き、中へと入った。 
そして、こちらを見て「にこっ」と微笑むと、ドアをぱたんと閉めた。 
「そこなら見つからんね。」と、Sちゃんは小さな声でささやいた。 

しばらく鬼の奮闘が続き、とうとうSちゃんも見つかってしまった。 
残りは、あの浴衣の男の子だけだ。Sちゃんは冷蔵庫の方へ視線を向けないように気をつけながら、焦る鬼役の子を見て、にやにやしていた。

突然、ガゴン! と大きな音がした。 
振り返ると冷蔵庫が倒れていた。ドア側を下にして。 
Sちゃんは、かくれんぼどころではないと、中にあの子が入っている事を打ち明け、皆で冷蔵庫をひっくり返そうとした。が、重い。子どもの力では無理だった。 

その時、運良く、農家のSちゃんの祖父が軽トラックで通りかかった。 
Sちゃんはお祖父ちゃんを呼び、冷蔵庫の中の友達の救助を求めた。 
農作業で鍛えたお祖父ちゃんの強腕にかかると、冷蔵庫はあっさりと動いた。 
お祖父ちゃんは、中の男の子がケガをせぬよう、ゆっくりとひっくり返した。 

「だいじょうぶ!?」と、Sちゃんが冷蔵庫の扉を開く。 
しかし、冷蔵庫の中には男の子などいなかった。 
中からはボロボロの青い布切れと、大量のワラがぼそっとこぼれ落ちてきた。 
「ひゃっ!」と子ども達が小さな悲鳴をあげた。 
「こン、イタズラ娘が。」とお祖父ちゃんは、笑いながらSちゃんの頭を軽く小突いた。 
友達もSちゃんのドッキリだと思ったようだ。首を傾げるしかないSちゃんであった。 

その日は、皆でお祖父ちゃんのトラックに乗って家に帰った。 
トラックの荷台の上で、Sちゃんはワラを一本つかんで、風に任せていた。

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