292 :全裸隊 ◆CH99uyNUDE :zenratai@hotmail.com sage :2005/08/01(月) 23:01:48 (p)ID:Umy23vP/0(2)
山好きが高じ、地質学者になった奴がいる。 
ある時、彼は秘境だとか、奥地だとか言われる高原に向かって、 
赤茶色の山腹に切られた道を車で走っていた。 
山には草木がほとんど無く、埃っぽく、そのせいでやたらと 
空が大きく、明るかったという。 
その明るい谷間に、黒い雲のような塊が、こんもりと 
浮かんでいるのに気付いた。 

同行している地元の学者も、ほぼ同時に気付き、あわてて 
車を停車させ、無線機にかじりついた。 

黒い雲のような塊の周囲を鳥が飛び交い、その下の川は 
魚が群れ、泡立ち、まるで川が煮え立っているようだった。 
どうやら、鳥も魚もその黒い塊が目当てらしい。 

無線機での交信を終えた学者が、その光景について説明した。 

あの黒い塊は、虫なのだという。 
まだ成虫ではなく、たいがい、成虫になる前にほぼ全滅するが、 
正確に言えば、全滅させるという事らしい。 
10年程度の間隔を置いて大発生し、鳥も魚も、ひたすらその虫を 
食い続けるのだという。 
そして、学者が無線機で交信していたのは地方行政府の役所で、 
最終的に、彼の報告は陸軍の地方司令部に達する。 

鳥や魚が、その虫を夢中で食う理由について、学者は簡潔に答えた。 
「あの虫、大人になると何でも食っちまうんだ」 
あれが成虫になると、鳥も魚も無事では済まないらしい。 
確かに、それなら必死になるかもしれない。 

で、なぜ軍へ連絡を? 
重ねて尋ねると、学者は、分からないのか?という顔をして 
「何でも食っちまうからだ」 
と答えた。 

駆除しそこなうと? 
まいったな、という顔で、学者は見渡す限りの茶色い山を指差し、 
「何でも食っちまうんだよ」 
村が全滅したこともあるという。 

広い中国の一地方での話だ。 

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