猫のオモチャ

665 :本当にあった怖い名無し:2009/04/18(土) 01:33:14 ID:qw2EXERP0

20年近く一緒に暮らしていた猫が死んだ
年末に体調を崩して以来、週間隔で通院していたが、
甲斐なく蝋梅の咲く頃に死んだ
刺繍がほつれボロボロになった首輪を小さな箱にしまって、
亡骸は裏庭に埋葬した

数日が過ぎ、ある晩、ふと鈴の音がしたような気がして目が覚めた
布団の上では、一昨年拾ってきた黒猫が、
「スースー」と寝息をたてて眠っていた
クロの鈴の音か、そう思って再び目を閉じた

朝、目が覚めてみると万年床の下から、
猫のオモチャがはみ出しているのを見つけた
老猫がとても気に入ってたその毛虫のような形をしたおもちゃは、
ところどころ、毛が抜けてボロボロになりながらも、
辛うじて尻尾の先には小さな鈴が付いていた
元気な時はこれで老猫とよく遊んでやったものだ
遠くへ投げると、勢いよく床を蹴ってそのオモチャを追いかけて行く
それを加えてきては私の足元に落として、膝辺りに3度ほど頭突きをする
その後、頭を撫でてやるととても気持ちよさそうにゴロゴロと喉をならしていた
そして、再びオモチャを投げてやる

単調だがそのやり取りを20年近くも繰り返してきた
ふと伸ばした手の先に、触りなれた心地よい感触の無いことを改めて実感した時、
突然に目の前の景色が歪み、熱いものが頬を伝うのを感じた
もう、老猫はいないのだ
私は首輪をしまった小箱に、そのオモチャをしまいこんだ

次の日の朝、私はふと首をかしげた
枕元にはしまったはずのあのオモチャがころがっていたのだ
再びそれを拾い上げると、小箱に入れた

その次の朝も、枕元にはオモチャがあった
老猫の霊が、夜な夜なオモチャを運んできてるのかと想像すると、
怖いと言うよりはむしろ、切なく感じた
遊び足らずに成仏できずにいるのだろうか?
その晩、私は朝まで寝ずに過ごすことにした
オモチャがどのように私の枕元まで届けられているのかを確認するために

前日と変わらない状況を演出するために、
電気を消して、布団にもぐりこんだ状態で睡魔と闘うのは非常に困難なことだった
3時を過ぎる頃にはウトウトとし始め、記憶が飛ぶようになってきていた
夢、現とも付かぬ状況のなかかすかに鈴の音がしたような気がした
鈴の音は一度床に落ちたような響きの後、引きずられるようにして近づいてくる
そしてその音が私の耳元あたりで止まった時、
ポトリ・・
と胴の部分が床に落ちるような音がした
暗闇に馴染んだ目であるにもかかわらず、音の辺りを見たが猫らしい姿は見えなかった
私は身を起こして、明かりをつけた

蛍光灯の明かりの強さに目が馴染むまで少し時間がかかった
目を細めて辺りを見ると、床にはオモチャと、そして黒猫の姿があった
そうか・・・
こいつが犯人だったのか
そういえば、老猫が存命中は一度も、このオモチャを貸してもらえなかったんだよな
やっと黒猫の順番が回ってきたんだな、
そう思うと目を丸くして私を見上げてる小さな存在がとても愛しく思えた
この黒猫がいなければ、老猫を失ったことの喪失感はさらに大きいものだっただろう
そんな思いに胸が一杯になりながら、私は黒猫を見つめていた

そんな私にせがむかのように、黒猫は私の膝に3回、頭突きをした
そしてとても気持ちよさそうに喉を鳴らしはじめた・・・

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