遊ぼう

811 : ◆iB95gylZuc :2008/11/08(土) 00:53:08 ID:nLqPJ8QWO
携帯から投稿させてもらいます。

遊ぼう1

Aが帰省したことから話ははじまる。大学に通うため上京しており、その年は正月も帰らなかったため、一年ぶり、盆の墓参りを兼ねた帰省だった。
実家に帰った次の日、予定どおり墓参りを終えたAは何もすることがなく、かといって実家にいても面白くもないので散歩にでかけた。
蒸し暑い夏の昼間、コンビニすらない田舎道。少しでも暑さをしのごうと河原へ足を向けた。
川原には先客がいた。白いワンピースに麦わら帽子をかぶった女の子。手には熊の人形を持っている。
年齢は小学生の低学年くらいだろうか。川に素足をひたし熊のぬいぐるみに話し掛けている。
Aに気が付いた少女は、屈託のない笑顔を浮かべ挨拶をしてきた。
少女はマナと名乗った。一人で遊んでいるかとAが聞くと、マナは寂しそうにいった。「友達がいないの。お兄ちゃん遊ぼう?」
その日からAは東京に帰るまでの六日間、昼間は少女と川原で遊び過ごした。

その年も正月は忙しくAは帰省できなかった。夏を迎えAは去年同様、墓参りを兼ねて帰省した。ただ去年と違うのは小さな紙袋を大事そうに抱えていることだ。
田舎に帰り墓参りを終え、一日目は終わる。次の日、Aは紙袋を抱え、川原にいってみる。思ったとおり川原にはマナがいた。遠めにも去年より背が伸びているのがわかる。
マナはAをみつけると一瞬嬉しそうな顔をしたが、ふいにぷいっと横を向いてしまった。
「お正月にも帰ってくるっていうから待ってたのに…」
マナはそういうとわざとらしく頬をふくらませる。Aは紙袋を差し出す。お詫びにこれあげる、と微笑みながら。
マナは嬉しそうに紙袋をあける。中身は人形だった。着せ替えができる金髪の、よくある人形だ。
マナははちきれんばかりの笑顔を浮かべると、次の瞬間、大事そうに抱えていた熊の人形を川に放り投げた。
唖然とするAにマナはいった。「大事なものはね、1つでいいの。そうじゃないと大事にできないの。さ、お兄ちゃんなにして遊ぼう?」

その年は年末から正月にかけて帰省することができた。
Aはマナとあえることを楽しみにしていたが、結局あうことはできなかった。川原に一度もマナは姿をあらわさなかったのだ。Aは少し寂しく思ったか、マナにも友達ができたのだろうと考え東京に帰った。
その年の夏、Aは墓参りと報告を兼ねて帰省する。報告とは今年で大学卒業予定のAが早くも、大手企業から内定を、もらったこと。そして、結婚を前提に付き合っている彼女がいること。この2つだ。Aの隣には寄り添うようにして彼女が一緒にいる。
田舎に帰りそれらの報告をすると、Aの親はとても喜び親戚を集め、早くも結婚したかのような盛り上がりをみせた。
噂をきいた昔の友達もAの自宅にお祝いに来たり、近くの飲み屋などで級友たちが祝いの飲み会をひらいてくれたりと、とても楽しい時間をAは過ごした。
田舎にいる最後の夜、ゆっくり二人で散歩したいという彼女の提案で二人は川原にいった。
川原に腰を降ろすと、Aの尻になにか違和感があった。腰を浮かし尻の下をさぐると紙をまるめたような塊が落ちていた。
Aはなんだろうと紙を広げる。すると神はあるものを芯としてまるめられていた。
芯は裸にされ、髪の毛が一本もなくなった着せ替え人形だ。右の腕が肩の部分から折れている。そして紙には真っ赤な字でこうかかれていた。

だいじなものはひとつですあそんであそんであそんで

Aは昔のことを思い出す。今は結婚もし、子供もでき幸せな日々を送っている。だが忘れられない不幸な日々もA級には確かにあったのだ。
大学を卒業するまで、厳密には彼女つれて帰省した年の秋。思い出すだけで地獄の日々だった。
まず彼女のアパートが火事になる。大事には至らなかったものの、彼女は背中に大火傷をおい、綺麗な髪も焼け坊主頭に。
火傷の治療のため入院している時に、彼女は意識がないにもかかわらずベッドからいなくなった。
あわてて探してみると窓の外に彼女の姿が。原因は未だに不明だが二回にある彼女病室の窓から彼女は落下したらしい。肩を強く打ったらしく右肩が脱臼しあらぬ方にまがっていた。髪がなく、腕がまがった姿はあの着せ替え人形を思い出させた。
怖くなったAは実家ある田舎の寺に相談にいった。
寺の住職はAの話をきくと悲しそうにこう話したという。
去年の秋、つまりAが最後にマナと遊んだ年の秋のことだ。女の子が川で溺れ死んでるのがみつかった。その少女はマナという名前だということ。
そしてその子の墓がこの寺の墓地にあるということ。
Aと住職はマナの墓に向かい線香に火をつけ、手を合わせ心からマナの冥福をいのった。その日の夜、Aの夢にマナが出てきた。
「一緒に遊びたかった…」それだけいうとマナは消えていった。
それからは特に不幸にも見舞われず暮らすことができた。
彼女も無事退院し、結婚もし、子供もできた。
Aの子供も、今年でもう七歳だ。今はAの横でテレビを見ていたはずが寝てしまっている。
ふと子供の手に目をやるとパパへと書いたピンクの手紙を持っている。
Aは手紙を抜き取ると、中身を取り出す。
手紙にはこうかかれていたらしい。 
おにいちゃんただいままたかわであそぼうねだいじなのはひとつだよね


この話を教えてくれた友人は最後にこういった。いまさA一家は行方不明になっているんだよね。

終わり
長文、乱筆失礼しました

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