あけてくださぁい

371 :ノア ◆WODiPzWX8U :2008/10/13(月) 05:04:36 ID:r44PznGb0
==2つめ

あれは中学三年生の夏。塾にかようバスの中でのこと。
いつもMDをききながら通うのだけれど、MDプレイヤーがそろそろ寿命かなっていう感じしてた。
充電してもすぐに切れちゃったりして。だから毎日のように充電して使っていました。
その日、バスにのって5分くらいでブチッっと音がしてMDがとまりました。
何度リモコンを押してもつかないので「ついに壊れた」と思ってかばんにイヤホンをしまいました。
いつも音楽を聴いてるので、何もないと暇で暇で。バスの前の表示を見ては、あと何駅か数えました。
ちなみに私が降りるのは終点でした。
ちょうど真ん中あたりのバス停に止まりました。そこはいつも乗ってくるお客さんが多いところで、その日も6人くらいバス停で待っていました。
静かに乗り込んでくるお客さんたち。ところが、一番最後におばあさんが(背が小さかったのですが)のろうとしたときに
運転手さんがドアをしめてしまったんです。もちろんおばあさんもびっくりですよね。
「あけてくださぁい。のりますよ~。」
なんて、いかにもおばあさんらしいのほほんとした声で言うんです。
私も運転手さんのほうを見ました。ドアをあけるような気配は全くありません。
もう一度おばあさんをみるとさすがに怒ってきたらしくて。
「なんであけてくれないんですか!」
とかって、口調が強くなりました。急にバスが動きだしました。
結局おばあさんは乗れないままです。私はおばあさんを目で追いました。
「あけなさい!なんであけてくれないの!?のせて!!」
ヒドイ運転手だなって思ったんですが走り出してしまえばもう乗ることはできません。
前を向きなおすとバスの中の人はみんなそっけない顔で当然のように座っていました。
あれだけ叫んでいたら誰かもう1人くらい窓の外を見ててもいいはずなのに。
みんななんてヒドイ人なんだろう。見てみぬ振りするにしてもヒドイ。
一人で動揺しているとバスは次のバス停に着きました。

「なんで乗せてくれないわけ!?」
ドキっとしました。あのおばあさんの声がするんです。
窓の外にはだれもいません。それでも声だけがまだ続いている。
わかりました。この声はわたしにだけ聞こえているんだって。
きっとおばあさんの姿をみたのもわたしだけなんでしょう。

そうとわかればその声は恐ろしいだけです。終点まで我慢するしかないんです。
やっと終点に着いたときにもおばあさんの声はきこえていました。
降りるためにいすから立ち上がると、バスのスピーカーからなにかの音楽が流れてきているのです。
まさかそんなことは普通ありえないですよね?
さらに怖くなって、早く降りようとしたのですが最後の最後に聞いたのは、そのスピーカーからきこえてきたおばあさんの声でした。
「のせてよ・・・・」
今までみたいな怒りではなく、もう諦めたような感じで、逆に恐ろしかった。
そしてスピーカーからきこえてきているなんて思っていなかったので、あの音楽もあのおばあさんのせいなのかと、思って・・・。


バスから降りてすぐ塾まで走りました。4、5分でしょうか。その間にどうやら私は泣いていたようです。
教室に入ると、そこには先生と友達がいて、2人で話していました。
「どしたの。」
友達が一言私にそういうと私は本当に安心して、すべてを話しました。
2人は笑って大丈夫だといいました。
何の根拠もないとわかっていながらも、やっぱりうれしくて。
それからそんなことはわすれて何事もなく家へと帰りました。

さて寝ようと思ったときにふと気付きました。
行くときにはつかなかったはずのMDをききながら帰ってきたということに。
ぞっとしてMDをもう一度つけてみると、電池のメモリはまだ3メモリ中2メモリのこっていました。

終わり。

前の話へ

次の話へ