賄いのおばちゃん

757 :本当にあった怖い名無し:2008/06/04(水) 02:33:32 ID:6UR7JIl4O
以前バイトしてたパチ屋での話。

勤務中に食事休憩(賄い)があり、一人暮らしだった俺には有り難い職場だったんだが、賄いのおばちゃん(当時40代後半)がどうもビリーバーな感じ。

懐疑派の俺とは普段から会話が噛み合わず、その日もお互いに無言のまま、休憩時間が終わろうとしていた。

「まだあと4時間もあんのかぁ」と考えてたら、猫が甘えて鳴くような声が聞こえた。食堂には最初から俺とおばちゃんの2人だけ。テレビも点いてないし、階下の店舗の音は全く聞こえない。何より、今の声(?)は俺の足元からした、ような気がする。

「インカムからか?」と、耳から外していたイヤホンを確かめようと視線を落とすと、同じ声が今度は耳元で、その分さっきより鮮明に聞こえた。猫なんかじゃなく、赤ん坊の泣き声だった。

不思議と恐怖は感じなかったが、何が起こっているのか判らず、そのままの姿勢で固まっている俺を見て、おばちゃんは黙って食器棚に歩み寄り、引き出しから何かを取り出した。

おばちゃんの手に握られていたのは、まだ真新しい「ガラガラ」だった。

俺と視線を合わせないまま、黙って「ガラガラ」を振るおばちゃん。定位置の椅子に座り、それまで読んでいた雑誌を膝の上でめくりながら、面倒臭そうに振り続ける。呆けたようにその様子を眺める俺の耳元には、相変わらず赤ん坊の声。

時間にすると1分ぐらいのものだろうか、耳元の声が次第に変化していった。喜色を帯びるというのか、なんとも楽しそうな、はしゃぐような声。最後には明らかに笑っていたような気さえした。

「まあ。赤ちゃんのことやしな」

実にさらっと言ってのけた、おばちゃん。俺も拍子抜けして

「ああ、そやね」

とだけ言って仕事に戻ったが、おばちゃんが最後の最後まで、目を合わさないどころか、あからさまに俺の方を見ようともしなかったことが、5年以上経った今でも気にかかる。

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