赤いシュノーケルをつけた人

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保守の意味もかねて一つ。
今年の夏、海がある母方の実家に遊びに行きました
冷夏と町の過疎化で余り海には人がおらず
晩酌のつまみに、ウニでも取ろうかと思って
午後四時ごろ、少し肌寒い海に入り
漁業組合の監視をちょっと恐れつつ
浜から50メーター位のところでウニやツブを拾ってたんです
手持ちの袋にそれなりの数も溜まったので
海面に突き出た岩礁に座って休みをとり、沖合いの夕日を見ていました
ふと沖の赤くきらきら光る海面に目をやると
逆光の中を頭まで被った黒いスウェットスーツと
赤いシュノーケルをつけた人がこちらにすーっと泳いできたんです
ヤバイ、密猟がばれたか、と思って覚悟を決めて岩礁に立ち
「すみませーん、お金払いますんで」と呼び掛けて手を振ったら
向こうの人は急に泳ぐのをやめて水面から顔を上げたのです
その時、私の目に飛び込んできた相手の顔は
水を出し入れする管がある、開いた二枚貝そのものに見えたんです
もう怖くなってしまって、すぐさま海に飛び込み全力で浜に向かって泳ぎました
この時ほど50メーターが長く感じたことはありませんでした
浜に着いたときは心臓がバクバクして、岩で足はすりむき、袋は無くしていました
海を振り返って見ると
そいつは、そこはひざ位も深さが無い浅瀬に顔を沈めたまま泳いでいました
その後、家に駆け込み、あたためた酒を飲んで落ち着きましたが
あの時の不気味な恐怖は忘れられません

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