間に合わなかった

314 :本当にあった怖い名無し:2008/05/11(日) 15:24:55 ID:MMKCdY8mO

子供の頃、犬を飼っていた。
雑種で、ムクムクの茶色の毛をした、愛想の良い犬だった。
誰にでもすぐなつくので、番犬失格と親父がよくこぼしていたが、俺は本当の弟のように可愛がっていた。
どこに行くにも一緒で、小学校の修学旅行にもこっそり連れていって、後で先生に滅茶苦茶怒られたこともある。
そんなに大切な存在だったのに、俺はあいつの最後を看取ってやることができなかった。
大学一年の冬、下宿先で親から連絡を貰って急いで帰ったけど、タッチの差で間に合わなかった。

あれから10年。今では実家には姉貴夫婦が暮らし、家も建て替えたので当時の面影はない。
庭にあった犬小屋もなくなり、その後に植えられた桜の木が、今では屋根よりも高くなっている。

今年の春、姉貴に呼ばれて初めて花見に参加した。
ほろ酔い気分で桜の下でうとうとしていると、不意に懐かしい臭いが鼻をくすぐった。
干した絨毯に、ミルクを混ぜたような独特の臭い。
思わず涙が出た。
シロさんごめんな。ずっと待っててくれたんだな……

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