寝台車

38 :1/3:2007/12/24(月) 03:36:02 ID:8H9eLDjB0
寝台車に乗ったときのことです。
朝4時前ぐらいに目が覚めた私は、
トイレに行って戻ってきたところで何となく外の景色が見たいと思い、
上下左右に並ぶ4つの寝台の足元にある大きな窓の前に腰掛けて
(壁から引っ張って倒す椅子のようなものがある)
車窓を眺め始めました。
明らかに空席とわかる寝台以外はすべてカーテンがしまっており、
私以外の旅客は皆寝ているようでした。

日の出前で外は真っ暗。
通路にかすかにともる灯かりのおかげで、
外を見ようと思えばかろうじて外が見え、
窓に映る後ろの景色に焦点を合わせれば寝台が見える状態でした。

私はしばらく外を見ていたのですが、
映り込む後ろの景色の中で何かが動いた気がして、
振り返らずに後ろの景色に焦点を合わせました。

そこには白い手が映っていました。
私がついさっきまで寝ていた寝台のカーテンのすき間から、
白い手がにゅっと出ていたのです。

振り返る勇気を持てないまま、
窓越しに何度も場所を確認しました。
やっぱり私が寝ていた寝台から手が出ています。
特に動くわけでもなく、カーテンを押さえるように
手の甲をこちら側に向けてじっとしています。
トイレに行くときに防犯のためカーテンを閉めてしまっていたので、
中の様子はうかがうことができません。

私が降りる駅まであと1時間以上あります。
荷物はカーテンの中です。
みんな寝ているようなので大きな声を出すわけにもいきません。
白い手に背中を向けている状態は怖いですが、
振り返ったり、ましてカーテンを開ける度胸はありません。

じっと腰掛けたまま、ひたすら次の駅に着くのを待ちました。
自分が降りる駅ではありませんが、
次の駅に着けば、降りる人や乗務員さん、駅員さんの
気配に驚いて手が消えてくれるのではないかと思ったのです。

この予想は当たりました。
駅に着き、ホームから視線を戻したときには手は消えていました。
まだ荷物という課題は残っていましたが、
降りる駅に着くまで窓際に張り付き、
ホームが見えたと同時にカーテンを開けて荷物を拾い上げ、
なりふり構わず列車を降りました。
ファスナーのあいた鞄から靴下などがはみ出していましたが、
何か見てしまったらどうしようという恐怖でいっぱいいっぱいでした。

もうひとりで寝台車に乗るのはやめます。
あと、荷物はいつもまとめておくようにします。

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