神隠し

246 名前:神隠し[sage] 投稿日:03/03/21(金) 13:37

12年前の話。

当時、俺の兄は近所に住むYという女性と付き合っていた。
Yは明るくて真面目で、なにより美人だったので、
不真面目な兄(誠実ではあったが)とは釣り合わないなぁ、
と正直思っていた。

…しかし、どうもYの家は借金を抱えていたらしく、両親は
兄とYの結婚を厳しく反対した。
兄は何度も両親に、Yとの結婚を認めてくれるよう頼んだが、
両親が折れることはなかった。

腹に据えかねた兄は、Yと一緒に、父親の車を
使って失踪してしまった。

当時はそれなりに騒がれたが、何年経っても兄とYは
一向に現れることなく、やがて俺もそんな事件は
忘れようとしていた…。

そして10年が過ぎた。
その日は、ちょうど仕事が早く終わったので、俺は意気揚々と、
鼻歌を歌いながら家路についた。

すると、俺の家の前に白い車が止めてある。
窓ガラスが黒っぽいのでよくは見えないが、どうも誰か乗っているようだ。

人の家の前に止めてんじゃねえ、と思いながら白い車をジロリと睨むと
車のドアに、斜めになった雷マークのような傷が付いていることに、ふと気付いた。

あの傷は……!!

俺は一瞬、目を疑った。あれは、俺がガキの頃、ドアを開こうとしてガードレールに
ぶつけて付いた傷だ…、そうだ、これは親父の車だ!!


まさか、兄貴が帰ってきたのか!?

俺は、勢いよく車のドアを開けて…、そして、悲鳴を上げた。

車の中にいたのは……、兄とYの白骨死体だった。

「う、うわぁあああああ!!」

俺は自分でも滑稽なほどの悲鳴をあげながら、思いっきり
車のドアを叩きつけるようにして閉じた。

その衝撃で、理科室の骨格模型をそのまま座席に置いたようなポーズで
座っていた兄とYの白骨死体が、がらがらと崩れた。

俺は再度悲鳴をあげ、地面にしりもちを着いた。あまりに唐突な事態に、
頭の中が真っ白だった。

何をしていいかわからず、俺は親父の車を、震えながらただじっと凝視していた。
そして……。数十分も経った頃。俺は、ある事実に気付いた。

兄とYの失踪事件から、もう十年も経っている。
なのに…。それなのに。

俺の目の前にある親父の車は、あの時のまま。十年前のままだったのだ。

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