地上五階建ての古い映画館

952 :本当にあった怖い名無し:2007/05/12(土) 07:14:28 ID:dEgCOX1fO

今から数年前、彼女と映画館に行った時の話です。

その映画館は今のシネコンとかと違って、座席指定も上映後の入れ替えもないような所で、
各階入り口で料金を支払って入場するタイプの、地上五階建ての古い映画館でした。

目当て映画は『MATRIX RELODED』。 最上階の一番広い会場でした。

ワクワクしながら五階に向かったのですが、ロビーにはほとんど人がいません。

公開して一週目、さらに金曜の最終上映なのに、
お客さんは僕らを含めて20人くらいとかなり少なかったです。
…まぁ、「田舎なのでこんなものかな」と思いつつ上映開始。

……エンディングを迎え、僕は非常に満足していました。
が、彼女はネオ対100人スミスの辺りからずっとソワソワしていて、
何度もキョロキョロしたりとあまり集中していない感じでした。

まぁ、元々アクション系の映画に興味が無いのは知っていましたし、
彼女と違って僕は一作目からのファンなので内容に没頭してしまい、あまり気にかける事もなく映画に見入っていました。

そして、スタッフロールが流れ出すと即「出よう。」と急かされました。

僕はどんな映画でもスタッフロールが終わって場内が明るくなるまで席を立ちません。
余韻に浸りたいのと、何かオマケ映像があるかも知れない、という思いで。
それは彼女も同じで、今までスタッフロール中に席を立つ事は滅多にありません。

そんな彼女が「早く出よう」としきりに急かすのです。

僕は、何故現実世界でもネオがセンチネルをぶっ飛ばす事が出来たのか?
スミスが現実世界に来ちゃったけど、味方の中に敵がいる、みたいな展開は早めに解決して欲しいなぁ、などと、
次回作を妄想する事でいっぱいで、正直少し鬱陶しく感じてしまい、
「トイレ?先に出ていいよ」と、ちょっと冷たくあしらってしまいました。

彼女は「そうじゃなくて…」と何か歯切れの悪い感じで依然ソワソワしていたんですが、
僕が動く気がないと悟ったのか、「じゃあ一階のミスドにいるから。…早く出てきてね。」
そう言って彼女は席を立ちました。

その際もキョロキョロと周りを伺っていました。

さすがになんかおかしいと思い、会いたくない知り合いでも見つけたのかな?と、場内を見渡してギョっとしました。

……誰もいねぇ! いつの間にか他の客も帰ってしまったようで、広い会場に僕一人。

ズラーっと並ぶ無人の座席が墓石のように見えて、正直ちょっと気味が悪くなりました。

…出ようかな、と腰を上げかけた所でスタッフロールが終わり、『revolutions』の予告が始まりました。
さっきまでの不気味な感じが吹っ飛び、一気にテンションが上がりました。
やっぱ待ってて良かった!他のお客さん可哀想に。 …妙な優越感を感じながら予告を堪能。

「やー、『revolutions』も楽しみだぜ!」と、ホクホクしながら会場を出ました。
当然ロビーには人影はなく、受け付けにロン毛の店員が一人いるだけでした。

挨拶もなく俯いている店員に目礼をし、エレベーターを呼ぼうとした所で背後から、
「すいません。ちょっとエレベーター調子悪いみたいなんで、階段の方からお願いします」と注意されました。
あ、そうなんですか、と了承。エレベーター脇にある狭い入り口をくぐって階段室に入りました。

『revolutions』の事を考えながら、やたら足音の響く階段を四階、三階と降りて行きます。

『reloaded』の終了がその日一番遅かったようで、各階の入り口は既に閉まっていました。

そして二階と一階の踊場に着いた時、パンツの後ろポケットに財布が無い事に気づきました。
映画の料金は僕が払ったので、落としたとしたら会場の中です。
やべー!と思いながら急いで階段を駆け上がりました。

…五階入り口のドアも既に閉まっていてさらに焦りましたが、中から話し声が聞こえました。
僕はホッとして、「すいませーん!」と言おうとした所で、ピタッと話し声が止まりました。
ん?と思いつつも、「すいません、会場の中に落とし物したみたいなんで、開けて下さい」と伝えました。

…何故か沈黙です。なんで?と思いつつ、しばらく呼びかけながらノックしたのですが反応がありません。
さすがにイラッとして、ちょっと強めにドアを叩こうとした所で突然照明が落ちました。

いきなりの暗闇にパニックです。うぉっ!っとマヌケな声まであげてしまいました。

踊場に非常灯があるおかげで全くの暗闇ではないのですが、
その弱々しい灯りはかえって不気味さを煽っているようです。

パニくった僕は勢いよくドアを叩きながら、「まだ客います!階段に客います!」と叫びました。

依然沈黙。

僕は何故か背後の踊場から何かがこちらを伺っている、という妄想にとりつかれ、背中が薄ら寒くてしょうがない。
半泣きになりながら、ドアを蹴り開けようと(DQNではないのですが)しました。

その途端、ドアの向こうから笑い声が響いてきました。

それも一人や二人ではなく、大勢で笑い合ってるような…

限界でした。

気合いを入れる為に腹に力を込めて「オ゛ッ!」と叫び、
後は飛ぶように階段を駆け下りました。

途中、勢い余って何度も壁にぶつかりましたが気にもなりません。

なんとか一階についたのですが、薄明かりの中でドアが閉まっているのがわかりました。
ドアに飛びついてノブをガチャガチャと回しましたが開きません。
…勘弁して、と、ドアをガンガン叩きました。


すると予想に反してすぐにドアが開き、一階通路の明かりが差し込んで来ました。

…そこには映画館の制服を着た二人の男が驚いた顔で立っていました。

僕は心底ホッとしました。
…安心するとさっきまで取り乱していたのが恥ずかしくなり、
一度深呼吸をして落ち着かせてから、財布を落とした事を説明しました。

「ああ、はいはい。では一緒に行きましょう」店員は快く了解してくれ、エレベーターのドアを開けました。

…さっきあんな事があったばかりで行きたくはないのですが、財布の為です。
それより、「あれ、エレベーター調子悪いんじゃないんですか?」当然の質問をしました。

店員二人は顔を見合わせ、「…?そんな事はないですが…」 不思議そうに答えてくれました。

………って事は、さっきの受け付けにいた奴の悪ふざけか!
急に怒りがこみ上げて来ました。…もう恐怖なんかはありません。
どんな仕返しをしてやろうかと考えているとエレベーターは五階につき、
チン!と軽快な音を立ててドアが開きました。

…ロビーは真っ暗でした。

先程の事を思い出し、体が固まって降りる事は出来なかったのですが、
店員さんはツカツカと暗闇を進み、照明を点けてくれました。

…特におかしな所はありません。

店員に促され、会場に入って自分が座っていた所を調べると、
予想通り財布は背もたれと座席の間に挟まっていました。  とりあえず一安心。


余裕の出来た俺は帰りのエレベーターの中で、あのロン毛の店員はなんなんすか?と尋ねました。

再び店員は顔を見合わせ、「うちは長髪NGなんで、ロン毛の店員なんかはいませんが…。女の子は別ですけど。」と。


…じゃあなんなのよ?あいつは? 何か釈然としませんでした。

ミスドで合流した彼女の話を聞いてさらにビビりました。

上映中、スクリーンの上に客席を見回す首が現れたり、
空席のはずの所にいつの間にか人が座っていて、客の方をジロジロ見てた、と。

それまでもその映画館は何度か利用した事があるのですが、こんな事は初めてでした。

ちなみに、高知の映画館での出来事です。今は潰れてるそうですが。

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