今日は運動会なんですよ

134 :本当にあった怖い名無し:2007/03/08(木) 01:54:20 ID:rthFzukF0

オカルトとは少しずれるかも知れないけど、私が中学二年生の時の話を。

その日は母校である小学校で運動会が行われていました。
母校は私の住むマンションの裏手にあり、
自宅のある三階の共用廊下からは運動場が良く見えました。
私には二つ違いの妹がおり、
小学校最後の運動会を家族総出で応援しようと、
朝からビニールシートで席を取っていました。
片道5分の距離を利用して、父と祖母、親戚を応援・撮影係としてその場に残し、
私と母はお弁当を作りに自宅へ戻っていました。

大人数のお弁当の準備を粗方終え、私は先に一人で学校へ向かうことになりました。
私は外に出てから靴を履くのが癖で、その日も靴を突っ掛けたまま共用廊下に出ました。

しゃがみ込んでから、ふと顔をあげると、目の前に女の人がいました。
学校の方を向いていて顔は分かりませんでしたが、「おばさん」という年齢でしょうか、
黒いツーピースを着て、孫らしき子供を腕に抱いてあやしていました。
「今日は学校の方が賑やかねえ。」 おばさんは言いました。
「今日は運動会なんですよ。」 靴紐と格闘しながら私は答えました。
妹の小学校最後の運動会なんです。 あらそうなの。楽しそうねえ。ねえ?
おばさんは子供にも語りかけながら、弾んだ声で私と話をしていました。

やっと靴紐を結び終わって、私は立ち上がっておばさんの方を向きました。

おばさんがあやしていたのは、 フランス人形でした。
一目で相当古いものと分かる、かなり薄汚い人形でした。
色がぼやけ、痛み、服も肌もまだらになった人形を、
おばさんはあやし、語りかけているのでした。

一気に肝が冷えた私に気付く様子もなく、おばさんは人形をあやし続けます。
ほら、きれいねえ。 きれいねえ。 ねえ。
だんだんと身を乗り出していき、
もはや学校ではなく真下のコンクリートを眺めながら、
おばさんが人形をあやす様子も激しくなっていきました。

我に返った私は、挨拶もそこそこに廊下を走り、階段を駆け下り、
家族の待つ運動場へと全速力で駆けました。
今思えば自宅に飛び込めばよかったのですが、その時は全く思いつかずに、
びっくりした顔の家族に泣きながら抱きつきました。

当然といえば当然ですが、おばさんは見知った隣近所の住人ではなく、
結局その日以降、一度も遭遇していません。
幽霊にしては存在感がはっきりあり過ぎた気がしますし、
人間だとしても、最上階ならまだ考えられますが、
11階建てのマンションの、わざわざ3階で人形をあやしていた意味がわかりません。
オチのない話ではありますが、10年弱たった今でも、
5、6月の良く晴れた日の朝、玄関を出るときにふと身構えてしまうのでした。

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