廃ホテル

946 :1/3:2006/11/06(月) 01:50:01 ID:sfxcEcQf0

幽霊話でもなんでもないですけど俺的にトラウマになった今だから話せるほんのり話です。

小学5年生に上がる前の年末、町一番の大きなホテルがつぶれた。
俺と悪友のKはそこに勝手に忍び込み、探検と称してはその廃ホテル内を目茶目茶に荒らしまわった。
建物内のガラスを割りまくったり、事務所から鍵束を取っては各部屋のコインTVの箱開けて小銭を盗んだり、ばれたら警察沙汰になるような行いを毎週末繰り返してた。
いけないことと知りながら、子供心にそれはとても刺激的で、破壊の楽しさとスリルに病み付きになり毎週土曜日の塾上がりと日曜の朝に必ずそこへ2人でいっては暗くなるまで楽しんだ。

ある土曜の午後、俺は塾へ、Kは隣の市の病院へKの母の見舞いに行くことになり、2人の用事が終わる4時半頃に例のホテル前で落ち合おうと約束して別れた。
塾が少し長引き、俺は5時少し前にチャリを飛ばしてホテルへ向かった。
ホテルのある対岸へ渡る長い橋を渡っていると、ぼんやりした夕日に照らされたホテルはまるで寒々とした川のほとりに立つ墓石のように見えた。

ホテル前で暫く待ったがKは来ない。
のどが渇いた俺は、また小銭でも稼ごうと一人でホテルに入ることにした。
開けっ放しの裏口から入り、事務所で鍵束を取る。
電気の止められたホテルは、明かりと言えば2月の薄暗い夕日が差込むくらいで、ゴミや瓦礫が散乱した屋内は歩くのすら困難なほど暗かった。
2階と3階のTVは全て開けたので4階まで上がることにした。

非常灯の消えた階段を手探りに近い感じで上った。2階、3階と上がるたびに静かに、そして暗くなっていった。
まだ上がったことのない未知の4階へつくとそこはソファーセットのおいてある広々としたロビーになっていた。
各部屋のある棟へ続く廊下を見渡していると不意に誰もいない廃墟を暗い中一人で歩いてることを自覚し、俺は突然怖くなった。
日はすっかり傾き、所々には真っ暗に近い闇すらあった。
ふと気付くとロビーのシャンデリアから不自然に長い紐のようなものが下がっていることに気付いた。
近づいて紐の先にあるものを見ると、それは何かの尻尾のようだった。
俺は心臓が小さく早く動き出すのを感じた。
つまりここには、ホテルが潰れた後も俺ら以外の誰かが出入りしてるんだ。
でもこの尻尾は何だろう。
猫の尻尾みたいだけどこんなところに尻尾を下げてどうするんだろう。
気持ち悪い、汚い、そして怖い…。
ゴミの散乱ロビーを見廻してみると、隅に横たわってるものに気付いた。
近寄って見てみるとそれは猫の死骸だった。
ぐにゃりの歪んだ猫は、片目の眼球が完全にが飛び出し口から血を吐いて絶命していた。。
そして傍らには猫の毛と血のついた木の棒が落ちていた。
その猫に尻尾がないことに気付いた俺は、ここで何があったかを悟った。
俺の心臓の鼓動は、自分でも聞こえるほど高鳴った。
呼吸が自分でも抑えられないほど強まった。
汗が噴出した。
手は振るえ、頭は空回りした。
つまり何者かがここへ猫を連れ込み、尻尾から天井に吊り下げ、撲殺したのだ。
尋常じゃない。そいつは尋常じゃない。狂ってる。早く出よう。ここから逃げよう。
かち合ったらエラいことだ。空回りする頭でそう考え直したとき、すぐ背後の廊下からパリンッ言うガラスを踏む小さな音が鳴った。

時が止まった。不意に静寂に包まれ自分の早い鼓動と耳鳴りを感じた。
誰かがいる。
誰かがこっちを伺っている。すぐそこの角の先から、闇の中から、息を殺して待っている。
子供の俺がを待ちぶせする意図は何だろう?ただ驚かすためだろうか。それとも別の…?と考えながら、俺は背後の廊下との角を見つめた。
目を凝らしても廊下の角の先には闇しか見えなかった。
時が止まったように体を止めて闇を見つめていると、細く押し殺した咳払いに続いて小さく鼻をすする音が聞こえた。

!!!!!!!????????

ヤバい。これは絶対にヤバい。人だ。人がいる。間違いない。錯覚じゃない。
飛び上がるように走り出した。今来た階段を手すりにぶつかりながら転げ落ちるように降りた。
入ってきた裏口へ回ると鍵とチェーンが閉まっていた。
!?
震える手で慌てながらガチャガチャと鍵とチェーンをはずし外へ転がり出た。
チャリは置いて走って逃げた。全速力でそのの場から離れた。
長い橋を息を切らして走りながら俺はボロボロと泣いていた。
その夜はうなされたのを覚えている。

翌朝Kの家へ行き、昨日あったことを語った。Kは見舞いが長引き来ていなかった。
俺はKにだけ何があったかを話し、二度とそのホテルへ行くことはなかった。。。

終わり

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