職人気質のおじいさん

575 :本当にあった怖い名無し:2006/08/13(日) 00:15:34 ID:XQxSAUrj0

数年前まで看護師やってたんだけど、その頃の話。

その日は準夜勤と言って、夕方から夜中までの勤務だった。
急変なんかが無ければ、いつも大体0時半から1時には帰宅出来てた。
私は仕事に行く時も、絶対に携帯を忘れずに持って行ってたんだけど、
その日はたまたま偶然忘れてしまっていた。
まあ、メールばかりの私の携帯は、着信なんてほとんど無いので別に困らないんだけどw

仕事自体はとても平和だった。
急変もなく、23時の見回りの時間。
看護師が病棟を廻ると同時に、当直の夜勤婦長も各病棟に巡回に来る。
私達が記録していると、夜勤婦長が来た。
「あ、ここにAさんって人が入院してたでしょ?」
「あー、してました、してました。」
すぐにある老人の顔が浮かぶ。

Aさんの事は忘れもしない。肺炎で入院していたおじいさんだった。
80歳後半でもシャキシャキしていて、痴呆もない、しっかりした職人気質のおじいさん。
だけど入院がもたらす環境の変化で、酷い不穏が出てしまった。
肺炎なので痰が沢山出る。
自分で喀出出来ないから、看護師が機械で吸引する。
口や鼻から気管の方まで管を入れるので、相当苦しい処置。
Aさんは涙目で暴れまくり、しまいには「呪うぞ!」「死ね!」と言うようになってしまった。

そういう風に変わってしまったおじいちゃんの姿に
家族はかなりのショックを受けてしまった。
そして、「連れて帰ります」と。
まだ血液検査やレントゲンの結果が良くないからと必死に止めたけど、結局帰ってしまった。

その日はAさんが退院して1週間位だっただろうか。
当直婦長の言葉に、「Aさん何かあったのかな」とちょっと不安になった。

「Aさん、DOAで運ばれて来たけどダメだったよ」
(DOAとは、呼吸も心拍も止まった状態です。)

家族の話では、「縁側でウチワを扇いでるなー」と思っていた数分後、
あまりにも静かなので声を掛けたら既に呼吸をしていなかった、と。
すぐに救急車要請して来院し、
病院でも強い薬を直接心臓に注射する処置等もしたけど、蘇生しなかったらしい。
家族は「入院中からお世話になって…」としきりにお礼を言っていたそうだ。

私は何とも言えない気持ちになった。
なんとなく、Aさんは病院で自分が何者なのか分からなくなるより、
家庭での死を望んでいたんじゃないかと言う気がしたから。

そんな事を考えながら、家に帰った。
帰ると、暗闇の中で、ベッドの上に置きっぱなしにしていた携帯に
着信があった事を知らせるランプが付いていた。
着信履歴は『表示不可』
見ると留守電が残されてるようだ。聞いてみる。

「………………」
何か雑踏のような音の遠くで、ボソボソ言ってる声が聞こえる。
男性の声だと分かるが、何を言ってるかは…?
聞き取ろうと耳を澄ますが、相変わらず何を言ってるかは分からない。
ちょっと気味が悪いな、と思った瞬間
「………馬鹿野郎!」
電話は切れた。

そう言えばAさんがよく「馬鹿野郎」と言ってたな、とボンヤリ思った。


577 :本当にあった怖い名無し:2006/08/13(日) 00:33:50 ID:XQxSAUrj0
あ、『表示不可』じゃなかったかも。
確か『通知不可』だった。

長文ですみません。

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