浜辺へキャンプ

881 :1/3:2006/07/25(火) 04:12:03 ID:LcIHsDhv0

親しい友達を集めて浜辺へキャンプに出かけた時の話です。

地元の漁師さんと交渉し地引網をしてその場で料理して食べて飲んでと…そんな企画でした。
あいにく前日までの悪天候が原因で船が出せず地引網はお流れになりましたが、
元々がそんな企画だった為、総勢20人程で馬鹿騒ぎをする事になりました。

夏の海でしたがその浜は波が強く遊泳禁止になっている場所でした。
それでも禁止は守られず数年にひとりは亡くなる方もいたようです。
中には泳ぎたいと言う者もいましたが私は幹事として安全を考慮しない訳にもいかず、
遊泳は禁止という事にしたのです。

夜も更けて、花火などのイベントも終え、眠る者、飲みながら語る者、
皆がそれぞれ行動をしていた頃の話です。

焚き火の周りで飲んでいた数人が怪談を始めようと言い出しました。
私は料理の疲れもありましたし、こういった話は得意ではなかったので寝る事にしました。

焚き火の近くの大きめのテントに入り、彼女に腕を貸しながら横になりました。
この日は月の明るい夜でしたし、焚き火から近い事もあって、
テントの中にいてもあまり暗くなくなかなか眠りにつけずにいました。

焚き火の方から時折起こる喚声を聞きながら瞼が重くなってきた頃にそれは起こりました。

最初は足音でした。

上手く表現できませんが砂地を引き摺るような歩き方と言いますか…
ズッ…ズッ…といった感じの音です。
しばらくするとそこに水滴の落ちる音がかすかに混じります。
ズッ…ピチョン…ズッ…ピチョン…

そんなに大きな音では無かったはずですが妙に耳に入ってくる感じで、
私は直感的に嫌なものだと判断しました。

なにしろ私がこういった体験をする時には常に彼女がそばにいましたし、
この時彼女は私の腕を枕に寝ているのです。

足音が大きくなるのと相対的に今まで聞こえていた焚き火の傍の声が聞こえなくなりました。
しばらくするとその足音はテントのすぐ傍まで近づきました。

ふと彼女の方を見るといつの間にか起きていて眼を見開いたまま固まっていました。
私も動くに動けずに彼女と共に固まっていました。
「すぐ傍に人が沢山いるし大丈夫だ」そんな風にも思っていました。

足音の方向を眼で追うとテントの薄い布地にうなだれながら歩く人の影がうつりました。
その影がテントの横で止まり、ひとつ…ふたつ…みっつ…よっつ…と影は増えていきます。

その影がこちらを向きテントに手を伸ばした時です。

「お前だーーーーー!!」

突然の大声に驚きましたが続いて笑い声がしたので私は胸を撫で下ろしました。
テントの向こうの嫌な感じも消え、影も見えなくなっていました。
彼女も安堵したのか落ち着きを取り戻していました。

このままふたりでいるのも怖く、起き出して輪に加わりましたがこの事は話せませんでした。
ふたりでテントを眺め「やっぱりいたんだ」と確信しました。
月の方向、焚き火の方向…私が見た影は光源を必要としない影だったから…

話を聞くと大声を出したのは悪友で「怪談でよく使う手法だよ」なんて悪びれもせずに言いました。

おそらくこの声に救われたのでしょうが私は今でもこの友に感謝すべきかどうか判断できずにいます。
なぜなら怪談を始めたのも…つまり、彼らを呼んでしまったのもおそらくこの悪友だから…

翌日、皆が撤収した後に彼女とお線香を買って来て浜辺で焚いて手を合わせました。
かける言葉はありませんでしたが少しでも心が安らげばと…

彼らを悪いモノだと決め付けるわけではありませんが、
泳いでいたらどうなっていたかと思うと今でもゾッとします。

私にとってはほんのりではありませんでしたが実害が無かったのでほんのりに投下しました。

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