山岳地帯

469 :本当にあった怖い名無し:2006/06/07(水) 20:34:08 ID:tWmHbE8r0

十数年前の事だが、野生動物の写真を撮りに或る山岳地帯に行った時の事、私と親友であるKは天候の急変に対処出来なくなり遭難した。
気温の極度の低下と猛吹雪に、山に慣れないKの疲労は特に酷かった。
あと少し下れば非難小屋に辿り着くはずだと言って、Kを励まし続けたが、岩陰にへたり込んでしまい、疲れたからちょっと寝かせてくれと言って横になった。
三回目くらいにおいおいと言って小突いて揺り起こそうとした時には、既に死んでいた。

わたしもここで凍えて死ぬのではないかと怯えた。
何を思ったのか、急いでリュックを背負おうとしていた。
その時Kの腕が私の足首にゴロリと転がって来た。
私の足首を掴んで、置いてかないでくれと懇願するような仕草に見えて、私はワァッと悲鳴を上げて飛び上がって驚いた。
猛吹雪の中を、Kの遺体を担いだり引き摺ったりして行けるものではない。
ここに置き去りにするしかない。それに私はKの遺骸を見たくはなかった。
オレをこんな所に見捨てて、自分だけ助かろうというのかと、今にも起き上がって私の襟首を掴み掛かってきそうで恐ろしかった。

慌しく身支度を整えると、また吹雪の中を非難小屋を目指して歩いた。
10分も歩かない内にあっけないほど早く非難小屋が見付かった。
心底嬉しかった。
これで死ななくて済むと思うと、涙がとめどなく溢れた。
小屋の囲炉裏に火を起こして、久し振りの暖を取った。
何がしかの食物を口に入れて寝袋に入って就寝した。
何時間か経ったのだろう、冷たい風が頬に当たる気配で目が覚めた。
囲炉裏の火が消えていた。
そして自分の横に誰か添い寝をしているような気配がしたので、ふいと横を見た。
目に飛び込んできたのは親友Kの血の気の失せた顔だった。
私はウワーと悲鳴を上げて、寝袋から飛び出した。
そこにはKの遺体が防寒具をぐっしょりと濡らして、どんと横たわっていた。

私は恐怖に駆られていた。
自分が発狂して幻覚を見ているのではと思った。
そして無我夢中で彼を肩に担ぐとまた吹雪の中に飛び出して、岩陰にKを置いてきた。
そして急いで寝袋に入ると、ギュッと目をつぶった。
直ぐに眠りに落ちた。
しかし、再度寒さで目覚めた。
横を見るとまたKの遺体が横たわっていた。
幻覚でも夢でもないこれは現実だった。
死骸が一人で動くなんてあり得ない事だ。
他に誰かいるのだろうか。
そいつがオレのやっていることを逐一見ているのか。
いるとしたらそいつの目的は何だ。
何のためにこんな馬鹿げた事を、、、。

私には親友の遺体と明け方まで過ごす勇気は無かった。
また岩陰に戻した。
もう体力も気力も限界に近かった。
私は撮影機材から自動シャッターの付いたカメラを取り出して、スイッチを小屋の入り口にセットした。こうしておけば、誰かが入ってきたら10秒毎にシャッターが落ちる。
そうすれば全てが分かる。私は眠りに付いた。
今度は明け方まで目が覚めなかったが、やはり親友Kの遺体は私に寄り添うようにして置いてあった。

下山後様々な処理を済ませた後、私は一人で暗室にこもった。
現像が終わり、ネガを投影機に入れてスイッチを入れた。
そこに写し出された光景を見るなり、私は愕然として号泣した。ワーワーと声を上げて泣いた。




472 :本当にあった怖い名無し:2006/06/07(水) 20:47:02 ID:ev0KqR0B0
・・・これで終わり?



473 :本当にあった怖い名無し:2006/06/07(水) 20:53:46 ID:brufaHO30
無意識に自分がKを運んでいた、というオチ

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