Kの住んでいる寮

176 名前:本当にあった怖い名無し :2006/01/03(火) 21:20:59 ID:DfN82NTl0

俺の大学の友達(以下K)は、普通の人にはあまりないような感覚――
俗に言う「第六感」というものが鋭いらしい。外で歩いている時もKは
ちらちらと周りを見ることが多く、何かあるのかと聞くと
「まだ来てる…さっきからずっと」などと言い放ったりしていた。
Kの話を聞くとそれが霊的なものであるようにも感じたし、もっと未知のもので
あるような気もしたけど、K自身もいまいちよく分かっていないようだった。
Kと仲良くなってから暫く経ったある日、Kの住んでいる寮に遊びにいくことになった。
Kの寮は大学とまさに目と鼻の距離にあり、歩いて五分も掛からない。
講義中に突然、「遊びにきなよ」と一言メールで呼ばれたものだから怪訝な感じがしたけど、
それまでに誘ってもらったことがなかっただけに好奇心が揺さぶられたので
講義が終わってからすぐにKの寮に行くことにした。
俺とKが通う大学は、よくまあこんな辺鄙な場所に建てたなと溜息が出るほど山奥にあり、
標高もそれなりに高いから厚着をしていても寒かった。その日もジャケットの
上から厚手のコートを着込んでいたにも関わらず、やたら寒かったのを覚えている。

大学から寮へ続く道は、車一台がやっと通れるような狭さで周囲は林に囲まれていた。
すっかり日が暮れていたので足元がよく見えず、あろうことか雪のかたまりに
足を引っ掛けて転んでしまった。何とか起き上がろうとしていると、突然後ろから
「大丈夫ですか?」と声を掛けられ、心臓が破裂しそうなくらい驚いた。
後ろを振りかえると背の高い男が立っていた。その人は寮生のような感じがしたが、
明らかに普通ではなかったのでぎょっとした。凍りつくような寒さの中、
Tシャツにハーフパンツという着こなしだったのだ。たとえ夏であったとしても、
このような山奥ではきびしい格好に違いない。さらにその男をよく見ると、後ろに
彼女らしき女の人が立っていた。俺の視線に気付いているはずなのに全くの無表情で、
男と同じように薄っぺらのワンピースというあまりにおかしい姿だった。
俺は訳が分からず怖くなって、そのまま寮の方向に全力で走って逃げた。
寮に着くなりKの部屋に直行し、Kに今起こったばかりのことをありのまま話した。
するとKはこう言った。

「男の方は寮生だよ。女の方は寮生じゃないけど男によく連れ込まれてる。
どうせ金がないからここをホテル代わりにしてるんよ、迷惑な話だよな(笑)
でも、そんなアホな格好をしてるのは見たことないし…あり得ん。
…お前、本当に後ろから声を掛けられた?正面からすれ違ったんじゃないのか?」
俺は首を縦に振るしかなかった。Kはなんだか険しい顔をしていた。
その後は2人で酒を飲みながら色々と話をして、結局、寮に泊めてもらうことになった。

夜にふと目が覚め、トイレに行きたくなった。時計を見ると午前3時、まだ真っ暗だった。
例のカップルのことで頭がいっぱいだったけど、我慢してKの部屋を出ることにした。
ドアを開けると、その2人がいたという部屋から明かりがもれていた。
一体いつ戻ってきたんだと思ったけれど、それ以上に、こんな時間に何をしているのか
とても気になった。耳を澄ましていると男と女の声が聞こえた。2人とも中にいるようだった。
突然、誰かに手をぐいっと引っ張られた。Kだった。
「部屋に入れ。早く」 言われてKの部屋に入った。
Kの顔は真っ青で、ただ事ではないことが窺えた。「何か感じるとか?」と聞くと、
「感じるなんてもんじゃない。とにかく、今は外に出たらまずい。」
それから朝になるまで、部屋の中で俺とKは押し黙っていた。

すっかり明るくなり、落ち着いてからKは俺に言った。
「昨日はすまん。お前をここに呼んだのは怖かったからなんだ。
ずっと前から、あの部屋からすごく嫌な感じがしてた。
お前ももう感づいてると思うけど…あの部屋、誰もいないぜ」
Kの言う通り、男の部屋には誰もいなかった…が、明かりは点いたままだった。
Kはさらに続けた。
「昨日は敢えて言わなかったんだけどな。お前がここに来る前、あいつらは
あの部屋にいた。それは正真正銘本物。寮の来客者名簿にもあの女の名前があった。
お前がここに着く前に外出したんだ。だから、お前とすれ違っていてもおかしくない。
そうなると、お前の後ろから来たのは何だったんだろうな。」

あれからKはその男女に会うのが怖くなって、寮を出てアパートを借りた。
あの時あの部屋にいた男女が何だったのか、未だに分からない。

長文失礼しました。
寮はM県のとある山にあり、いまにも崩れ落ちそうなほど老朽化していて
非常に不気味な場所です。虚無感というか…静寂すぎる空気が怖い。
雰囲気に耐えられないという理由で、寮を去る人もいるくらいです。


181 名前:本当にあった怖い名無し :2006/01/03(火) 22:10:45 ID:13Iy2dw7O
乙です
結局その男女は生きてる人なんか?

182 名前:176 :2006/01/03(火) 22:33:56 ID:DfN82NTl0
>>181
所々分かりにくい部分があってすみませんです。
実際に寮に住んでるその男と彼女は普通の人でしょうけど、
寮への道の途中で会った男女と、Kと俺が寮にいた時に
部屋にいた男女は、不可解な存在だったと確信しています。
普通の人間と、そうでないものが入れ替わりながら
寮を行き来していたのではないかと。

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