赤トンボ

221 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/01/26 00:03

友人の話。 

一人で秋の山野をハイキングしていた時のこと。 
午前の爽やかな空気の中、草原をゆったりと歩いていたそうだ。 
彼の目の前に、赤トンボの大群が姿を現した。 
次の瞬間、彼はトンボの群れに包まれてしまったという。 
右も左もトンボしか見えず、彼らの羽音しか耳に聞こえなかった。 
ひどく幻想的な情景だったと彼は言う。 

唐突に赤トンボの群れは過ぎ去り、あたりを見渡した彼は驚いた。 
見事な夕焼けが目に入ったからだ。 
トンボに包まれていたのはわずかな時間のはずなのに、半日以上の時間が過ぎていた。 
「虫も人を化かすことがあるのかな」
彼は不思議気にそう語ってくれた。 

今、その草原は切り崩され、大きな大学が建設されている。 
トンボもその数をすっかり減らしてしまったそうだ。

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