エレベータ

474 名前:1 :2005/04/26(火) 17:46:34 ID:SqW7WSQp0
丁度3週間ぐらい前。 
飲み会から帰ってきたある日の夜のこと。 
タクシーから降り、自宅マンションのロビーに着いた瞬間 
カンカンカン… 
階段の方から上り下りする足音が聞こえた。それはあまり考えられないことだった。 
なぜなら、階段は吹きっ晒しの鋼鉄製非常階段で 
マンションの住民は皆エレベーターを利用していたからだ。 
非常階段を使うときなんてエレベータが故障したか、通じている屋上へ行くときぐらいだ。 
ましてや肌寒いこんな夜に階段を使うなんて。 

気味が悪いな、と思いながらエレベータのボタンを押した。 
5Fに停まっていたエレベータは下へと降りてくる。 
4F…3F…2F…あれ…? 
私のいる1Fを通り過ぎ、エレベータはB1へ。 
B1は駐車場になっている。 
この時間は駐車場を利用する人も多いんだろうが、足音のこともあり 
エレベータの中で人と乗り合わせるのかと思うと気が重くなった。 
住民同士とはいえ、密室は好きになれないからだ。 

エレベータがB1から1Fに着き「チン」と音を立てて扉が開いた、その瞬間 
思わず後ずさりをしそうになった。 
エレベータにはB1から乗ってきた(と思われる)女性がいたのだが 
彼女は扉に背を向けて立っていたのだ。 
一瞬乗るのをためらった。 
だが、背格好からして50歳前後のその女性は 
服装も髪型も至って普通の主婦らしく、違和感なぞ全くない。 
不気味に思ったが、長い間エレベータにいるわけでもないし乗ることにした。 

エレベータに乗り込み、4Fのボタンを押す。 
ここで初めて違和感を感じた。 
行き先ボタンは、私の押した4F以外他はどこも押されていないのだ。 
…押し忘れだろうか? 
話しかけようかと思ったが、とてもそんな勇気はなかった。 
エレベータは4Fに到着。 
私は足早に降りた。女性が動いたという全く気配はなかった。 

家に着いたのだが、アルコールのせいか喉が異様に渇いていた。 
ところが、こんな日に限って冷蔵庫の中身は空っぽなのだ。 
マンションの隣がコンビニなので、面倒に思いながらも財布を持って出かけた。 
エレベータは4Fに停止したままだった。 
私が降りたあと、どこにも移動していないということだ。 
だって私が家にいた時間はほんの僅かだったのだから。 
乗ろうかどうかためらった。 
でも…思い切って↓ボタンを押した。 

その瞬間全身に鳥肌が立った。 
さっきの女性が全く同じ姿勢で立っていたのだ。 
乗れない、乗っちゃいけない。 
そう思ってほとんど走るようにその場を去った。 
彼女が振り返らないように…そう祈りながら非常階段へ向かった。 

彼女は一体何者だったのだろうか。 
あれから、マンションの他の住民で彼女だと思われる人を探したが 
それらしき人物は全く見当たらない。 

あの日の階段の足音… 
あれは彼女がエレベータに乗り込んでいたために 
私と同じように階段を使っていた住民ではないだろうか… 
ほんのり 

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