影との取引

734 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/01/10 23:45
知り合いの話。
彼は学生時代にオフロードバイクを趣味にしていたという。 
よく一人で山中の林道を走っていたそうだ。 
ある夜、バイクの横でシュラフに包まっている時のこと。 
ふと目を覚ました彼は、すぐそばに小柄な影が立っているのに気が付いた。 
身を硬くする彼に、それは奇妙な抑揚をつけて話しかけてきた。

 望みを言え。お前の大事なものと交換してやろう。

大手の企業に就職が決まっていた彼は、しばらく考えてから答えた。 
会社で大出世をさせてくれ。代わりに俺の子どもを差し出そう。

 よかろう。その願い聞き入れた。

承諾の返答が聞こえると、影はすうっと消え去った。 
彼は身を起こして、くすくす笑ったという。 
おかしな夢だと思っていたし、何といってもその時、彼はまだ独身だったのだ。 
当然子どもなどいるはずもなかった。

数年後、彼は二十代の若さで課長に抜擢された。 
その企業では異例の大出世で、陰口も色々と叩かれたという。 
彼自身の頑張りももちろんあったのだが、ライバルたちがことごとく病気や事故で 
脱落してしまったせいだった。 
呪いという言葉まで囁かれたのだそうだ。 
元来勝ち気な彼は気にもせず、ますます仕事に邁進した。 
会社の創業者の孫を嫁にもらい、向かうところ敵なし順風満帆だった。
それからしばらくして、彼は影との取り引きを思い出すことになる。 
彼の妻が流産してしまったのだ。 
あれは夢だったはずだ、何かの偶然だ。 
そう思ったが、妻はそれから続けて二回流産をくり返した。 
検診では母子ともに健康だったといい、医師にも理由が分からないと言われた。 
憔悴しきった妻には、とても約束のことは話せなかった。

彼は恐怖に襲われ、あの林に一人で出向いたらしい。 
しかし彼の前に影は現れなかった。 
必死で林に向かってひざまずき、あの願いを忘れてくれと頼んだという。

現在、彼の妻は四回目の妊娠をしている。 
周囲はいささか神経質に見守っているのだそうだ。

787 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/01/13 00:40
>>745 
どーもです。>>738はなかなか鋭いとこ突いています。
忘れてくれと彼が訴えてからしばらくして、彼の担当していたプロジェクトが 
失敗して大赤字を出してしまい、責任を問われたそうです。 
結局、創業者一族のどろどろとした争いに巻き込まれた形となり、地方の 
支店へ左遷になってしまったとか。 
肩書きは上がったそうですが、負け組み確定になったようで。

奥さんは甘やかされて育ったお嬢様らしく、読書好きでも物静かでもない 
ようです。すごいわがまま・・・夫婦仲は良いようですが。 
奇妙な流産だったようで、精神的な面以外には母体に悪い影響はなかった 
と医者に言われたんだとか。 
まるで何かに腹の中の子どもをさらわれたように思えたとも・・・。

流産の反動か分かりませんが、現在3人もお子さんがいるらしいです。 
最後にホッとしたサンダーバードでした。

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