菜食主義

469 :雷鳥一号:03/12/02 23:37
知り合いの話。
彼女は気が強く、山にも一人で出かけることが多かった。 
紅葉狩りに行こうと秋の谷へ出かけた時のことだ。 
通る人とて無い細い道を歩いていると、木立の奥より物音がした。 
覗いてみると、少し先の木陰で、大きな猿のような背中が樹の根元を掘っていた。

ここで襲われたら逃げられない! 
強気な彼女も、その時ばかりは一人でいることに焦ったらしい。 
すると、まるで彼女の心を読んだように声がかけられた。

 襲わんよ。わしはこれでも菜食主義者なんでな。

まさか口がきけるとは思わず呆然としていると、それは立ち上がって振り向いた。 
大猿の身体に、初老の男性の顔がついていた。 
立ちすくむ彼女を残し、それは悠然と歩き去ったという。 
その手には、掘り出したばかりの長い山芋を持っていたそうだ。

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