鹿の首

736 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :03/12/11 01:11 
知り合いの話。
彼のお爺さんが猟師をしていた時のことだ。 
冬期で食料が乏しくなっていた頃、折りよく鹿を見つけ撃ったのだという。 
鹿はよろめきながらも藪の中へ逃げ込んだ。

後を追って藪に踏み込んだ彼が見たものは、雪の上に置かれた鹿の首だった。 
胴体の方はどこにも見当たらず、血の匂いがあたりに充満していた。 
いつもはすぐ後をついてくる猟犬が、藪の外で恐ろしげに鼻を鳴らしている。 
これは不可侵の領域で狩りをしちまったな、と悟って退散したそうだ。

 山の神さまには獲物を何回か取られたけれど、あれが一番怖かったな。 
 まぁ山で獲れる物は、本来が山の神さまの物だから仕方がないか。

お爺さんはそう言って屈託無く笑っていた。

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