悪戯

229: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE 2005/11/01(火) 23:52:24 ID:Vgr4Wn9r0
笹の葉が一枚、ぴんと跳ねた。 
意識するほどの風はなく、他の葉はほとんど動かない中、 
その一枚だけが突然、何かに弾かれたように跳ね上がり、 
跳ね返り、激しくといって良いほどの勢いで揺れ始めた。
笹の茎はぴくりともしない。 
葉に張られたクモの糸でも引っ掛けたのだろうか。 
似たような光景は山道だけでなく、街中でも見かける事が 
あるので、それほど気にしなかった。

激しく揺れる笹の葉の脇を通り過ぎると、3メートルほど先の 
笹の葉が弾かれたように揺れ始めた。 
そしてまた、歩くに従って次の葉が揺れる。 
山道だけでなく、街中でもこれはない。

振り返ってみたが、どの葉が揺れていたのか分からない。 
足元では、笹の葉が激しく揺れている。 
音でもしやしないかと思うほどの揺れ方だが、特別な音はない。 
歓迎、威嚇、合図。 
そんな言葉が浮かび、偶然という言葉が、それらを否定した。

息をつき、次の一歩を踏み出した。 
瞬間、空気が弾け、足をすくわれ、転倒し、這いつくばった。 
頭上、空気が唸った。 
風が巻き、緑が香り、寒気を感じた。 
笹の葉ではなかろうと、すぐ思った。 
よほど大きな何かが、俺めがけて殺到したのだと思った。 
小さな、軽い何かが首や肩にぱらぱら当たった。
目を開けると、杉の枝が見えた。 
枝だけではない。 
左の斜面から、杉の木が倒れ込んできていた。 
根元の土は掘り返され、空気に触れたばかりの土特有の 
色と匂いがあった。

意地になって杉の木をまたぎ、先へ進んだ。 
20メートも歩いてから振り返った。 
予想通り、倒れている木など、どこにもない。 
どの木が倒れていたのか、分からなかった。

誰が、あるいは何が悪戯しているのだろう。

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