ムジナ

884: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE 2006/04/28(金) 22:59:28 ID:+dmQAV4A0
山をいくつも越え、目指す宿まで、あと少し。 
「この先スタンドありません」という看板があり、 
ガソリンスタンドがあった。
以前、北海道で似たような看板を見た。 
「この先50キロ スタンドありません」 
その先、数キロおきにガソリンスタンドがあった。

そんなことを思い出しながら、ガソリンスタンドへ 
車を入れた。 
店員は、初老の男が一人。 
例の看板について、話しかけてみた。 
この先、実はガソリンスタンドがあるのではないかと。

もしあったとしたら、そりゃ狐ですよ。 
ばかされますよ。 
妙に不機嫌に、そう言った。

ガソリンスタンドを出て数分。 
本当に次のガソリンスタンドがあった。 
やっぱりかと愉快な気持ちになり、また車を入れた。

若い男の店員に満タンかと聞かれ、洗車を頼んだ。 
車を洗う店員に、先ほどのスタンドの話をした。 
「あっちじゃ、ここを狐のスタンドだって言ってたよ」 
「信じないでしょうけど、あれは狸のスタンドですよ」 
きっと、ばかされてるはずだと言い切った。

車に乗り、キーをひねった。 
燃料計の針は、半分あたりを指している。 
給油したはずなのに、増えていない。 
「やられましたね」 
店員は呑気に笑っている。 
この山の上にある宿まで行くのだと話すと、 
少し考えるような顔をして言った。 
「ムジナがやってるって噂がありますよ」
仕方なく給油し、宿に着いてから燃料計を見ると、 
増えていない。 
一日で狐と狸の両方にやられたかと、笑いが浮かんだ。

宿は施設も従業員も、食事も申し分なかった。 
「ここがムジナの宿だって言われたよ」 
風呂上りにそう言うと、えっ、と従業員が向き直ったが、 
同時に宿が空と木々に姿を変えた。

俺は、車の横に立っていた。 
アナグマが、丸い背の、荒い毛並みを見せながら 
笹の間に姿を消した。 
アナグマが、かさこそと音を立てた。 
しばらくそれを聞き、俺は車に乗った。 
道だけは、本物だった。

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