古びた手鞠

414: 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ 2006/07/21(金) 03:40:35 ID:TDiGJCl80
友人の話。
夜釣りをしようと、山中の溜め池に出かけた時のこと。 
外灯の明りを頼りに竿を振っているうち、ふと場違いな音が聞こえてきた。

 ぽーん ぽーん

近くでゴムボールが弾んでいるみたいな、そんな音だった。 
何の音だろうと耳を澄ませていると、いきなり音は途切れた。 
そして横手から足下にコロコロ転がってきた物が一つ。 
布で編まれたような、古びた手鞠。

「取って」と少女の声がした。 
仰天して周りを見回してみたが、闇の中には誰の姿も見えない。 
恐る恐る鞠を拾い上げ、声がした方へ放ってやる。

鞠が地に落ちる音は聞こえなかった。 
やがて再び、ぽーんぽーんという音が聞こえ出した。 
何も見えない闇の中、誰かが一心に手鞠をついている。 
もうとても堪らず、直ぐさま退散したのだという。

帰ってから原因不明な熱が出て、数日間寝込んでしまった。 
熱が引いてからも、しばらくは夜釣りに出られなかったそうだ。

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