サンコウさん


126 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ [sage] 投稿日:2011/04/20(水) 20:12:55.31 ID:M9js9F/p0 [2/3回(PC)]
知り合いの話。
その昔、彼女の祖父がまだ炭焼きをしていた頃の話だ。 
煮炊きに使う薪を集めに山奥を歩いていると、見覚えのない広場に足を踏み入れた。 
はて、この山ン中にこんな開いた所があったろうか? 
見れば下生えも綺麗に刈られていて、歩き回るのにも支障がない。 
明らかに人の手が入っている。

広場の真ん中に、古びた祠みたいな物が見える。 
近よってみたところ、そこには奇妙な物が並べられていた。 
人を象った、不格好な木彫りの人形。 
誰が拵えた物かわからないが、五体ほど等間隔で置かれていた。 
見ているうちに何故か気持ち悪くなり、逃げるようにそこを後にしたそうだ。

炭焼き小屋に帰ってから、居合わせた里仲間に自分の見たことを話してみた。 
「サンコウさんの土地に入り込んじまったんだな」と言われた。 
サンコウさんとは、そこの山神の呼び名だ。 
「人形ってのは今年、サンコウさんが取ると決めた人の形代だろう。 
 お前さん、山で仕事するんなら気を付けるがいい。 
 機嫌損ねると、その五人の内の一人になっちまうぞ」

「嘘か誠かはわからんが、そう言われたんだよ。 
 だからって訳じゃないが、山ン中にいる時は粗相しないよう心掛けたよ。 
 幸い、サンコウさんに取られもせず全う出来た。有り難いことだ」 
祖父はそう彼女に語ったという。

最後にこう付け加えた。 
「それにしても不思議なのは、あの広場には二度と辿り着けなかったことだ。 
 サンコウさんは、何で儂にあそこを見せたんだろうな」
 

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