まくら

1354 :ともかね:2011/08/30(火) 01:58:53 ID:gokIW0A60

少し長いです。
文才もないので、判らなかったらごめんなさい。

10年前に体験した話です。

ファミリーレストランでバイトしていたとき、二人の女性に出会いました。
髪の長い、なかなかの巨乳のTさんと癖のあるセミロングで小柄な、ふとましいHさん。

自慢なんですが、私は仕事の覚えは人一倍早く、一週間でホールとキッチンを覚えました。
その分、飽きが早いのが短所であるが。

仕事場にも慣れてきたとき、Hさんから相談を受けた。
男関係だった。
なぜ私なのか? 自分で言うのもなんですが、女性に頼りにされるような性格も外見でもないし、どちらかといえばマイナス思考。

たぶん仕事覚えが早い=何でもできる。みたいに思われたのでしょうが、とんだお門違い。
何度も断ったし、回りからも「あいつ面倒臭ぇから関わらないほうが良い」
といわれていた。

しかし、当時お人よし過ぎた私は、話だけでもと、聞いてしまった。
内容は、要はクズ男と別れたいのに、相手がしつこい。
とのことだった。

どうでもよかった。
さっさと分かれれば良いじゃん。
ストーカーなら警察行けよ。
それくらいしか言えない。

本来、相談というのは受けた側はアドバイスするだけで、解決するのはあくまでもする側だと想う。
しかし、一向に解決しようという気が見られない。
何度も同じような悩みを持ちかけてくるのが、あまりにイライラして、
「仕事以外で話しかけないでくれる?」
と、とうとう自分でも信じられないくらい冷たくあしらった。

暫くは相談事で話しかけられたけど、無視した。
それからは、全く相談されることもなくなった。
シフトも、わざと外してたし。

そんな面倒ごとを背負いつつも、私はTさんに恋をした。
仕事が出来て、年下ながら姉後肌の女性に弱い私の、ドストライクだった。

1回はふられたものの、数ヶ月のアプローチの末、何とか付き合えるようになった。
付き合っていることは内緒でしたが、周りにはそれとなくばれていたらしい。

程なくして、Hさんは辞めていった。
やっと平穏なバイト生活を迎え、Tさんとの付き合いは順調で、デートや朝帰りの回数も増えた。
幸せなはずのリア充の期間ですが、程なくして、私は悪夢を見るようになった。 

面識のない、真っ白な男が猛烈な勢いで走ってくる夢だった。

年齢は20歳くらい。
格好はダメージパンツに、陰陽マーク?をあしらったデザインのTシャツ。
髪は長めで、いかにも遊び人な感じだったが、子供のように泣きじゃくって、まるで私に助けを求めているようだった。

勢いはすごいものの、ルームランナーの上にでもいるかのように、一向に近づくことはない。
それでも、あの形相と真っ白な無音の世界は、たまに見る悪夢とは全く別の恐怖があった。


悪夢の回数が増えていき、私は次第に寝不足になっていった。
そんな私に、さすがに気づいたTさんに、悪夢のことを話した。
と、Tさんはなにか納得したような顔になった。

聞くと、バイト先のYさん(35)も、同じ夢を見て、病院に通うようになり辞めていったという。
大学時代、格闘技で鍛え抜かれていたうえに、健康オタクだっただけに、誰もが驚愕したという。
その後、Yさんがどうなったかは判らないが、ひどく疲れ果てた末に、職場で倒れかけたこともあるという。

真っ先に、Hさんのことが頭に浮かんだ。

もともと私は霊感が全くない分、ファンタジーやオカルト関係が大好きで、変に感が良い。
危険なところは無意識に避けるし、危険に近づけばなんか空気を感じて引き返す。
傍から見ればただのビビリだが、そのおかげで今まで大病も何もないのだ。

バイト先の先輩に聞けば、やはりYさんも相談を受けていたとのこと。
が、私のときとはちょっと違った。

Yさんは、実際にHさんの自称彼氏Nと、会っていたらしい。
そのN、要は美人局をYさんに仕掛け、金を取ろうとしていたらしく、
「自分はヤクザ関係だ」とか、小物臭丸出しのセリフを吐いて、Yさんにボコボコにされたとか。

以来、Nはバイト先に関わらなくなったというが、相変わらずHさんの「相談」は続いていて、周りから疎まれていたのだ。
それから一ヶ月ほど経って、Yさんは辞めていった。 

相変わらず、私は悪夢を見続けていた。
疲れも限界で、バイトを休みがちになった。
Tさんが何度かお見舞いに来てくれたが、何もする気になれず、イライラも募るばかりで、私は彼女に当たるようになっていった。
そんな自分が嫌で、逃げるように彼女に別れを告げ、引き篭もりがちになった。
当然、バイトもやめた。
このままじゃダメだ。
そう思い、私は思い切ってHさんと連絡取ることに決めた。
先輩から、仕事場に張られていた緊急連絡先から、Hさんの番号を聞き、電話をかけると繋がった。
夕方、近場の公園に呼び出し、最近の自分の状態について話をしたが、今思えばあほな行動だ。
「呪いか何かやったのか!?」
大真面目な顔でそんなことを言っていたのだから。
当然、Hさんは「?顔」。
シラを切っているだけなのかもしれないが、判断できない。
ただ決め付けて、私は胸ぐらつかむ勢いでHさんを攻め、パニック状態のまま帰宅した。
誰かのせいにしないと、気が狂いそうだったのだ。
信じられないのが、帰宅したその日の晩だ。
電話番号を使って、Hさんからメールが届いていた。

件名:相談があるんですが・・・。

それを見たとき、ぶち切れた。
怒りではない。呆れ?恐怖?何かわからない、初めての感情が噴出したのだ。
あのときの感情は、たぶんHさんに殺意を抱いた自分への恐怖だと思う。
私は、自分でも信じられないくらいの罵詈雑言を書いたメールを返信した。
人として言ってはいけない事を、この時ばかりは書きなぐり、何通も送った。
私は泣きながら布団の中に包まり、必死に念仏を唱えていた。
気がつけば朝で、私は股の間にまくらを挟んだ形で、縮まっていた。
悪夢は見なかった。 

Hさんからのメールが何通も来ていたが、すぐに消し、拒否設定し、まだくらくらする頭を休めようと、枕を引き寄せて顔をうずめた。
「・・・?」
まくらの感触がおかしかった。
普段のそば殻の、シャクシャクとした感じの中に、変な塊があった。
背筋が粟立ち、気味の悪い寒気と同時に、異様なほどの「危険」を感じたけど、自分の部屋で、逃げようにも動けない。
私はまくらの感触の原因を調べようと、カバーのファスナーを開けた。
汗染みの跡がある、見慣れたまくらが現れ、変わりなく縫い合わされている。
しかし、何かが入っている。
わずかにほつれた部分につめを引っ掛け、糸をぶちぶちと切って、小指を突っ込み・・・と、徐々に穴を広げた。
「っぅ!!」
悲鳴が出なかった代わりに、わずかに胃液を戻した。
たまらずトイレに駆け込み、空の胃袋を痙攣させる。
そば殻に混じって入っていたのは、長い髪の毛だった。
いえ、正しく表現すると、長い髪の毛と、何年も切り貯めておいたであろう爪と共に、そば殻が混ざっていた。と言ったほうが良いでしょう。
その髪の毛は真っ黒で、ぐねぐねと波打った癖毛でした。
Hのものなのか、だとしたらいつの間に?
この爪は?
ただ、私は親と同居していて、ここ数年友達も部屋に入れていない。
唯一、親が出かけたときに、Tさんを入れた。
ゴミ袋にそれらを詰め込んだ後、私は神社にそれをもって行き、これまでの経緯を話したが、
力を持っていないのか、困惑してどうしたら良い変わらないといった顔の神主に、警察に通報することを薦められた。
一応お払いをしてもらい、お守りを買い、いまも肌身離さず持っています。
あれからは何事もなく、人並みに平穏な人生を歩んでいます。
判らないことだらけで、特に気になるのが、真っ白な男は誰なのかということ。
あくまで想像だけど、Hの彼氏なんじゃないかと。

ただ、半年ほど経ったとき、街でTさんを見かけた。
彼女の髪は短かった。

前の話へ

次の話へ