待つ女
314 :雷鳥一号 ◆jgxp0RiZOM :2014/04/11(金) 19:36:40.10 ID:ModvaOnF0.net
知り合いの話。
フィールドワークで山を一人で巡っていた時のことだ。
軽い疲れを覚える頃、小さいが綺麗な池を見つけた。
丁度良いと休憩に入る。
腰を下ろして一服していると、池の水面が俄に波立った。
そして波紋の中心から、何者かがヌッと立ち上がる。
全身ずぶ濡れの、髪の長い女性だった。
今風の白いワンピース姿だったという。
驚いて竦む知り合いに向かい、女は唐突に尋ねてきた。
「ヤマモトくん?」
彼の名はヤマモトではない。
混乱して声を出せないでいると、「待っていたわ」と続けてきた。
その雰囲気に、何か危険なものを感じて我に返り、即座に否定した。
「いや違います、ヤマモトじゃないです!」
女はジッと彼の顔を見つめ直すと、再び尋ねてくる。
「ヤマモトくんじゃないの?」
「はい違います、僕は断じてヤマモトではありません!」
声を張り上げて全力で否定すると、女はのっぺりとした無表情になる。
「そう」とつまらなさそうに呟くと、女は水に溶けるように崩れて消えた。
女が完全にいなくなったのを確認してから、彼はその場から逃げ出した。
その後は、その池の近くには決して近よらないようにしているそうだ。