カンブネ

342 :雷鳥一号 ◆jgxp0RiZOM @\(^o^)/:2014/04/16(水) 19:27:48.22 ID:UWHOj+6M0.net

知り合いの話。 

仲間数人で、夜景を眺めに山の展望場へ登ってみた。 
中々に見事な麓の街灯りを眺めていると、ふと視界に入ったモノがある。 
街の沖合、暗い海の上を滑るように進む白い影。丸い桶のような形状。 
月も出ていない真っ暗闇なのに、何故かそれだけがくっきり浮かび上がって見えた。 

「カンブネだ」と、その時一緒にいた連れが口にする。 

棺桶の舟という意味らしく、海の彼方にある常世に死者を流し遣るための舟だという。 
補陀落渡海のようなものだろうか。 

「まぁ随分と昔のことなんだけどね。 
 常世に辿り着けなかった舟も多いんだろう。 
 今でも迷っているのかも……あまり見ない方が良い」 

そんなことを言うものだから、極力気にしないことにした。 
帰る際もう一度海を見やったが、もう何処にも白い影は見えなかったという。

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